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エピローグ-テオ-
——愛する人の中で果てた後——
テオは、気絶したように眠る優芽の頭を抱き寄せ、額に口付けた。
「ユーガ……」
本当は、ユーガを見た瞬間からすべて思い出していたよ。
テオという名でこの世に生を受け、それから18年間、至って普通の家庭で、家族に愛されながら育ってきた。
転機となったのは大学に入ってすぐの、新入生歓迎会があった晩——
ユーガと目が合った瞬間、俺は自分の前世を思い出した。
桔梗坂蓮夜として生きた28年間。
そして死んだ後にユーガと出会い、成仏するまでの一ヶ月をユーガと過ごした記憶——
魂が、意識がこの世から離れる直前、俺は確かに幸せを感じていた。
最期に自分の意思で、ユーガに快楽を与えられることが嬉しかった。
人と肌を重ねることが辛く苦しいものだと思っているユーガが、確かに快楽を感じていることが、身体の感覚を共有している自分の方にも流れ込んできていた。
人生の最期——正確には人生を終えた後、霊体として過ごした期間の中でも最後の一ヶ月を、ユーガといられたことが幸せに思えた。
そんな前世の記憶を思い出したものの、俺は躊躇った。
レンヤの記憶を持つ自分と、テオとして生きてきた18年。
生まれ育った環境も、性格や考え方も似ているとは言えず、自分の中に上手く馴染まなかった。
ユーガが好き、と言う気持ちはどちらも共通して持ち合わせている。
だからフランス語の先生となったユーガに、事あるごとに話しかけたり、精一杯のアピールはしてきた。
けれどユーガは自分のことを、『レンヤ』の生まれ変わりとして見ているだろう。
もしユーガと将来結ばれることがあったとして……
ユーガが愛しているのは『レンヤ』であって、『テオ』——俺ではない。
テオとして四年間ユーガの側にいる間、俺はレンヤとテオの乖離に悩み続けた。
けれど、たとえユーガがレンヤを愛していようと、それでユーガが自分に振り向いてくれるならばそれだけでも幸せなことだ。
せっかく生まれ変わることができて、前世の記憶も思い出せたのに、
このまま黙ってユーガと離れ離れになるのは耐えられない。
そうして、何も起きないよりはましだと心の中に落とし所を作り、俺は大学を卒業するタイミングでユーガに告白した。
そうして、今に至る——
テオがこれまでの日々を思い出しながら、優しくユーガの髪を撫でていると……
「……テオ……」
テオの腕の中で眠っていた優芽が、不意に口を開いた。
「ん。起きたんですか?」
「……ジュテーム……」
「え——」
「ジュテーム、テオ……」
そう呟き、テオの身体をぎゅっと抱きしめたまま、再び眠りに落ちた優芽。
テオはしばし呆然と優芽を見つめていたが、やがてその瞳にはほんのりと涙が浮かんできた。
「ジュテーム……俺も愛してる、ユーガ……」
眩しい陽が部屋の中に差し込み、テオのグレーの髪と、そして優芽の黒い髪を照らしている。
テオは幸せそうな表情で眠る優芽を両手で抱き締めると、彼もまた、柔らかな笑みを浮かべながら眠りに落ちていった。
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