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エピローグ-ユーガ-

「先生!見えますか?あれがローヌ川ですよ!!」 「……もう先生呼びはやめろって言ってるだろ」 軽い足取りで先を歩いていくテオの後を、優芽はやれやれと言った表情でついて行く。 「それにもう俺、アラフォーなんだからさ。 体力はお前の半分しかないんだよ」 「そっか。もう38でしたっけ、せんせ……ユーガ」 テオはふわりと微笑むと、優芽に手を差し伸べた。 「じゃあ、はいっ。おじちゃんのために、俺が手を引いてあげますね!」 「……生意気……」 優芽は呆れたような笑みを浮かべながら、その手を取った。 「それにしても良かったのか? 大学の卒業旅行が、こんなおっさんと二人きりのフランス旅行て」 「最高の卒業旅行ですよ! ユーガにとって初めてのフランスで、その隣を歩けてるのが俺なんだから」 「……そっか」 「それに——俺の中の『レンヤ』も喜んでますよ、きっとね」 テオ——現在22歳の彼とは、約4年前に出会った。 初めて見た時、蓮夜の生き写しの容姿と声をした彼が、蓮夜の生まれ変わりだとすぐに気づいた優芽だったが 自分が勤める大学の生徒——まして未成年の彼にどう接したら良いか迷っていた。 しかしテオの方から授業の相談をしに来たり、雑談など積極的に声を掛けてくれるようになったため、先生と生徒としての交流を深めていった。 それから四年近くの時が流れ—— 卒業を目前に控えたテオは、あるとき優芽の元へ会いに来ると、ずっと優芽を慕っていたということを打ち明けてきた。 卒業し、先生と生徒の関係ではなくなったら、自分と付き合ってほしいと告げたテオに、優芽は真実を打ち明けた。 自分はテオが、かつて慕っていた人物の生まれ変わりだと思っていること。 自分もテオを好いてはいるが、テオのことを、その人物に重ねて見てしまっている部分があること。 前世と比べているようで申し訳ないから、テオの好意を素直に受け止めきれないこと—— するとテオは、むしろ前世の頃から自分を慕ってくれていたということに感動し、涙を流して喜んだ。 そして大学最後の思い出を優芽と作りたいからと、優芽とのフランス旅行を計画したのだった—— 「知ってますか?ゴッホの有名な絵!」 「ああ。『ローヌ川の星月夜』だろ?」 「ここをモデルにして描かれたんですよね」 俺とレンヤが一緒に描きあげたあの絵も、元はローヌ川を背景にして描き始めたものだった。 「先生——ユーガ」 「うん?」 暫く川辺に腰を下ろし、二人で水の流れを眺めていると、テオが不意に口を開いた。 「ユーガとこの景色を見れて良かったです。 ユーガがずっと望んでいたと言う『フランスへ行く』夢を一緒に叶えられて嬉しいです」 「……ああ。俺も、テオと来られて嬉しいよ」 「『テオ』じゃなくて——『レンヤ』と来られたことが嬉しいんでしょ?」 「……っ!」 「いいですよ。『レンヤ』も俺の中の一部だから。 レンヤに嫉妬したりなんかしてません」 「……ごめんな」 「ふふ」 テオは顔を真っ正面、川の方へ向けたまま微笑んだ。 「——でもね、先生……」 そして不意に、視線を優芽の方へ向ける。 「俺と先生……ユーガとの四年間だって、レンヤとの思い出に引けを取らないくらいだと思ってます。 ずっと俺の片思いだったし、今も半分片思いみたいなものだけれども——」 「……」 「俺……ユーガの思い出をもっと欲しいです。 ユーガが大切な人にしかしないようなことを……期待してます……」 「……テオ」 「俺、先生が欲しいです。 ユーガの身体に触りたいです。 他の誰も触れないような場所に触れたいんです……」 顔を真っ赤にしながら、真っ直ぐな瞳を向けてくるテオを、優芽は静かに見つめ返した。 「……宿、行こうか」 ——借りた宿の部屋に鍵を掛けると、優芽はそっとベッドに腰掛けた。 「好き——大好きです……」 テオはそう言いながら、優芽の唇を塞いだ。 確かに感じる柔らかな感触と、温かな湿度。 いくら求めても空を切るばかりだった実体がそこにある。 「ん——」 優芽が舌を入れると、テオから僅かに喘ぐ声が漏れた。 「良いんですよね、先生……?」 「いいよ——俺のこと、好きなだけ好きにして」 「痛かったら言ってくださいね。 俺——初めてで上手くできるか自信ないけれど……なるべくユーガに痛い思いはさせたくないので」 「痛くても平気だよ」 「平気とか平気じゃないとか、そんな問題じゃないんです。 ユーガには、なるべく気持ち良く、幸せでいて欲しいから——」 テオは優芽を押し倒すと、ゆっくりとシャツのボタンを外していった。 「ッ——」 敏感な場所へ、柔らかな唇が触れていく。 ゾクゾクとせり上がってくるものは、間違いなく快楽そのものだった。 中高生の頃、自分の性を散々消費され、弄ばれていた頃には感じることのなかった感覚。 ただ一度、レンヤの意思で手を動かしてもらったあの日しか感じることのなかった快楽が、確かに自分を包んでいた。 そうか、俺は—— テオのことが好きだ。 優芽は、テオから与えられる快楽を素直に享受し、時に喘いだ。 頭の中が真っ白になっていくその寸前、優芽はこんなことを思った。 ジュテーム、テオ。

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