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第5話 文化祭練習編

 エロい空気になってもミョンがいるなら平気だぜーっ! と、盛り上がっていた時期がありました。 「取って……取れって。ンッ、こんな、無理だってぇ」  婚約指輪のように、俺の尾の付け根にはリングが食い込んでいた。 「リングあってもなくても同じでしょ? なら、つけておこうよ。俺が楽しいから」 「やだやだやだぁ、馬鹿っひゃああん!」  ズボンの中に手が入ってくる。下着の上から撫でられ、ぎゅっと太ももを閉じる。それでもお構いなしに指は動き甘い刺激を産む。 「やだっ、はあ、はあ……。ドロテ、やめて」 「早く台詞言いなよ。ツェイの番だよ。言うまでこうしてるね?」 「こんな状態……ぁ、台詞、なんか、言えな……っ、ああ」 「それじゃあずっとこのままだよ」  へたり込んだ俺を後ろから抱きしめ身体をまさぐってくる。やめさせようと手首を掴むも、リングが敏感な個所を締め付け続けるので力が入らない。 「はら……。頑張って思い出して?」  耳元で囁かれ、指の腹で乳首をトントンと叩かれる。 「はぅっ」 「下着も湿ってきたね」  湿ってきたところをくるくるとくすぐられ、ビクッと大きく跳ねる。 「やめ、てぇ……。あ、ああ! いや! それ……」  がぶっと耳に噛みつかれ軽くイきかける。床に倒れ込みたいのに、逞しい腕が許してくれない。……おまけに、味方してくれていたミョン監督は何度も何度も間違える俺に愛想をつかし、いまは背景作りに没頭している。そんなのってないよ! ちょっと二十六回間違えただけじゃん。 「一度、台本読ませ……んあっ」 「なんか言った?」 「ばかっ、やだぁ。胸揉むなっああ」 「台本なら何度も読んだじゃん? 思い出せるって」 「あああ、こんな状況じゃ、思い出せなっ、ひぅっ! ドロテ……いじめないで」 「ふふっ」  キュッと乳首を摘まれ、腕を振り払おうと暴れるが大した抵抗になっていない。震えながら振り返るも、ドロテは笑っているだけだ。 「離、して……。胸、ずっと摘むのやめ」 「胸だけ? 下はいいの?」  手のひらを使って大きく撫でられ、尻尾の先を舐められる。 「ああ、ああ……!」  頭がぼーっとしてくる。熱が高まっても、この程度の刺激ではイくことも出来ずに、ただただ甘い欲が溜まる。  ガクガクと身体を震わせる俺に、察したドロテが悪魔のように囁いてくる。 「かわいそ。ね、イきたい?」 「っ!」 「楽になりたいでしょ? 思い出して。ほら」  く、くそっ! たしか……たしか……。 「う、ああ、あ『貴方が、かつて助けてくれた……。お、王、子様?』」 「はい、残念。そこは王子様じゃなくて騎士様、だよ」 「んひゃああん」  尖った胸をピンと弾かれる。ひときわ大きく跳ねた後、ドロテの胸にもたれ込んでしまう。 「背もたれにしないでよ……」 「だって力……はあ、入らなあ、ひん!」  ぱくっと耳の先を銜えられ腰が揺れる。 「自分で腰振ってどうしたの? いやらしい」 「ンッ、ンンッ……じゃあ止め、あっあっ」  腕の中に納まり、赤い顔で腰を振って誘ってくる彼氏。舌なめずりをして我を忘れかけた瞬間、飛んできたメガホンが思い切り頭部に命中した。玩具とは言えそこそこ痛い。  頭を押さえ、ドロテはキッと家主を睨む。 「痛いよ。何?」 「何? じゃありませんぞ。どうして家主より堂々とできるのか教えてほしいですな」 「教えてほしいの? ミョン君の存在を忘れることかな?」  真面目に答えているドロテの頭を、メガホンを回収しに行ったついでにもう一回ボコンと叩いておく。 「……」  俺とのいちゃこらを邪魔され、ムッとなったドロテは手を伸ばす。 「ッ」  ぐいっとミョンの白い尾を掴んだのだ。すぐさま猫パンチで叩き落とされる。 「喧嘩なら買いますぞ!」 「ミョン君って割と好戦的だよね」 「貴・殿・が! 怒らせているだけですが?」  シャーッと毛を立てるミョンに意識を向けたとき、身体の向きを変えた俺がちゅっとキスする。 「……」  ぼっと真っ赤になる秀麗な顔。 「つ、ツェイ?」 「なんだよ。お前だってミョンに浮気してんじゃん……」  ドロテは絶叫する。 「ち、違うよ! そんな馬鹿な」  聞いていないのか、すりすりと顔をこすりつける。 「んん。ドロテ……」 「ごめんね? 中断して。まあ、ミョン君が悪いんだけどね?」  顔をサッと左に傾ける。黒耳の横をメガホンが通り抜けた。 「さっきから邪魔しないで。ミョン君も混ざりたいの?」 「それで台詞を覚えられるようになるとは思わないのですが? 同士は本当に頭低品質なのですから、真面目にやらないと文化祭まで間に合いませんぞ」  ムカッとしたのは俺だった。ミョンが母親みたいな心配をしてくれているのは伝わるが、これはこれそれはそれ、だ。両手を伸ばし、ミョンを強引に引き寄せる。 「何事⁉」 「うるさい! 言いたい放題言いやがって。ミョンも手伝え!」 「えっ拙者は小道具作りのノルマがっ」 「『いけません。姫。貴女は敵国のネコなのです。俺のことはお忘れください』」 「あんっ、んぐっ……は、はあ『そんなっ、ことを仰らないで……ひああん! アンッあ、あ、そこ……。そんな、こと、仰らないで、くださ、ンン』」 「なんかすげー『エロイ気分になってる姫』みたいになってますぞ」  ぐちゅぐちゅとズボンの中から艶やかな音が響く。間違うたびにミョンに胸の横をくすぐられ、ドロテが下着の中をいじめ、尻尾の先を甘噛みしてくる。  二匹にサンドされた状態で、俺は口の端から唾液を垂らす。 「あーああ、アア、やあぁあ、ああ」 「姫(ツェイ)ってエロい方が良いじゃん?」 「何をほざいているんですかな? 貴殿は。ほら。早く台詞言ってあげなさい」 「『いずれ俺たちは戦う定め……。姫。さようなら』……は? 別れたくないが? 姫くらい攫って行けよ王子」 「台本にケチつけるんじゃないですぞ」  ドロテが俺の顎の下をくすぐる。 「んんっ」 「台詞覚えてるよね?」 「……はあ、あ、『ま、待ってくださ……。行かないで。私はあなたのことが、わ、忘れられないの』」 「行かないで、じゃなくて戻ってきて、だよ」 「はい。お仕置ですな」  制服の上からカリカリと胸を引っ掻かれる。尾先を舐められ、ぬるぬるになったペニスを上下に扱かれる。  ビクンと背中がのけ反る。 「ああっ! いやあ! ソコ、ああ、いやああ……い、いぐ……イきそ……はあああっ。と、止めて。手、どめてぇえ」 「それじゃ罰にならないでしょ? いまの台詞、もう一回言い直して?」 「だめぇ、ああああ! やめてそん……あなぁ、ああっあっ。ドロテ……ゆ、ゆるじえ」 「許すも何も、怒ってないよ? 可愛いよ?」 「あ、あ! 熱い! 熱いよ。お願い! ドロテぇ……」  ボロボロと涙を流す。ドロテの手の動きは鈍くなるが、恋愛感情の無いミョンは容赦なかった。俺の口にハンカチを押し込む。 「んぐうっ?」 「近所に聞こえても困るので」 「んんンん!」  涙を流す瞳に見つめられてもスンとした表情のままだ。 「ん、ん、んん……」 「口封じたら台詞言えなくない?」 「そう言えばそうですな」  ドロテがずるっとハンカチを引き抜く。一瞬だったのに唾液を吸ったそれはてらてらと光っていた。ドロテはそれを美味しそうにちゅっと吸いつく。 「ツェイの味がする」 「返しなさい」 「あっ」  シュバッと引っ手繰られた。 「ちょっと返して」 「拙者の持ち物ゆえ」  頬を膨らませると俺の身体の向きを反転させ、唇に吸いつき直飲みしていく。 「ん、ふ、ぅ」 「んん。美味しい……」  ミョンが尾の根元を擦るので、どんどん唾液が分泌されていく。 「ぁ、ん。ふう……んん」 「とろんとして可愛い。ねえ、俺のこと好きって言ってよ」 「そんな台詞ありませんぞ」 「ちょっと黙ってて。ツェイ。好きって言ってくれたら、イかせてあげるよ?」  また身体を反転させ自分にもたれさせると、太ももを撫でる。 「ふあ、あ」 「俺、ツェイに好きになってほしいよ。メールじゃなくて、口で直接言ってほしい」 「……ぁ、でも、でも」 「ね? それともツェイは、俺のことあんまり好きじゃない?」 「……」  息を荒くしてうつむいてしまう。ドロテの表情も悲しいものになるが、 「いーーーえ。同士は貴殿のことクッッッソ好きですぞ。貴殿のいない部活の時にどれだけドロテが好きかと、馬鹿惚気てきますので」 「だから言うなってばぁぁ!」 「かなりうざいです。耳タコですな」  怒鳴りつけるも瓶底野郎はツンと鼻先をつついてくる。 「拙者にドロテ氏の愛を叫んでないで、本人に直接言いなさい。ドロテ氏に捨てられますぞ?」 「……」  捨てられると聞いた途端、俺は顔面蒼白になった。ドロテは若干嬉しそうに「およ?」と目を丸くする。 「だ、だって。恥ずかしいし。メールじゃ、駄目なの?」 「駄目ですな。零点です。最低。ドロテ氏じゃなかったらビンタして捨てられてますぞ?」  ショックを受けたような顔になる俺ににんまりと笑い、ドロテは下着の中に手を押し込む。 「んあっ!」 「じゃ、好きって言うまでイけない地獄で遊ぼっか?」 「台詞は⁉ 練習しなきゃ、ほら……」 「息抜き息抜き」 「い、いやいや。俺が息抜きにならな……あっ」  邪魔くさそうにズボンごとずり下げられる。明るい部屋。大事なところを二匹の前に晒され、カアァと顔が熱くなった。ズボンを引き上げようとしたが、ドロテに後ろで縛られる。 「縛らなくても……」 「すっかり立っちゃってるね? どこか触ってほしいところ、ある?」 「触らなくていいです! 見ないでっ!」 「こことか?」  くりくりと鈴口をいじられ、ビクンと腰が跳ねる。 「ああ、やだああ」 「さっさと好きと言ってあげなさい」  足を閉じようとしてもミョンが身体をねじ込んでくる。胸ぐらを掴み上げられると、ミョンの唇が唇に触れる。 「……ぁ」  ミョンに、キスされてる。  濃厚な殺気が広がった。 「ミョン君?」 「部屋代と言うことで」  眼鏡を取ると、もう一度唇に噛みつく。舌は入ってこない。というかこの美人は誰だ。 「み、ミョン。俺のこと、やっぱ好きなの……?」 「好ましいですが。んーーーどうしてもアホ度が高くて付き合おうとは思えませんな。ドロテ氏はかなりの物件ですぞ? 彼で満足しておきなさい」  間近で見つめられ、頬が染まってしまう。  が、悲しくなった俺は目を伏せる。 「……じゃ、なんでキスするんだよ」 「さっき言いましたぞ」  眼鏡をかけなおすとドロテに返却するように軽く俺の胸を押す。 「うっ」 「はい。お帰り」  帰ってきた愛しい茶ネコをぎゅっと抱きしめる。 「じゃあ、楽しみにしてるね?」 「ちょ待っ……あっあああ! ああ、あ」  ドロテは容赦なくソレに触れてくるが、玉をやわやわと解すような触れ方なのでイくことはできない。落ち着いてきた熱が再び身体中に回って行く。 「もっ、やだって……」 「このまま終わると思った?」  裏筋をぬるぬると指先で刺激され、身体を倒して逃げようとするが、動くたびにリングが力を吸い取っていくようだ。 「やめ、はず、かしいんだってばぁ……」 「俺は言ってほしいけど。ツェイが可愛いから今はまだ言わなくていいよ」  根元からツゥっと撫で挙げられ、ビクッと身体が跳ね、歯を弱く噛みしめる。 「あ、は、ぁ、あああ。やんっ! あ、ああ、あ、も、ああ」  イきたいのに、これ以上の刺激は与えられない。無意識に腰をくねらせるも、ドロテの視界を楽しませるだけであった。 (好きって、言えば終わる! け、けど――)  恥ずかしい。どうしても口に出来ない。ずっと無視されて悲しくて。そんなドロテの本音を聞けて嬉しかったはずなのに。どうして俺は。 「アッ、あああ。ほんとっ、やめ。ドロテ……んああっ」 「顔、ぐちゃぐちゃにして。可愛いんだから」 「それは否定しませんが」  ドロテが首筋を、退屈しのぎにミョンが胸を舐めてくる。 「あ、ああ! んや……うあああっ、やめ、変に、な、ああ」 「変になっても愛してあげる」 「どろて……そんな、ドロテ!」  イきたい。イきたい。イきたいいっ。  熱い。熱いィ! 「だ、だめ! もっと激しくして! ドロテ。もっと触ってぇ! ミョンももっと強くッ……。ドロテ! はやく! ぐちゃぐちゃにしてよぉ!」 「……」  髪を振り乱し子どものように泣き喚き出した俺に、ドロテの理性の糸が切れる。  腕を解いてやり、ズボンを下ろすドロテに、ミョンはあきらめの境地で掃除道具と水分を取りに出ていく。  腰を高く上げられた体勢にさせられ……いや、自分からしたのかもしれない。俺はドロテを受け入れた。  ずん、と一息に突き入れられて、強すぎる快感にそれだけでイってしまい、背中をぎゅっと反らせる。ビリビリと痺れるような快感を、尻尾をピンと立てることで逃そうとするが、それがドロテのお腹を誘うようにくすぐってしまう。 「……何? もっと激しくしてほしいって意味? 優しくしてあげようと思ったんだけど」 「違、あ、ああ! う、動かさな……ぐ、うう」  フローリングの床に爪を立ててしまう。 「んん……。ツェイのナカ、気持ち良いよ? イくとひくひくと締め付けてくるところが。もっとイかせたくなっちゃう」 「ドロ、あっあっあっ」  優しくゆっくりと、でも奥に届くほど突かれて、ひっきりなしに声が零れる。視界に光が飛びそうなほど気持ちがいい。 「あ、あぐっ、あ、ああああ。いもち……きもち、いいよぉ……ドロテ」 「本当? 嬉しいや」 「あん! ば、か……。大きく、しないでっ。ああッ!」 「可愛いこと言うからでしょ? ツェイのナカにいっぱい注がせてね」  ぱくっと耳を銜えられ、ビクビクと精を放つ。くたっと力が抜けてもドロテは腰の動きを弱めてはくれない。むしろイったことでナカのドロテを締めつけてしまい、さらにかき混ぜられる。 「ああっ! いま、動かさないで! だめぇ」 「イったあとって敏感になるもんね……。って、ありゃ。イかせないつもりだったのに。……まあいいか。言うまで終わらないに変更しよっと」 「ドロテ! やだ、ソコっああああ、うああ‼」  時計の長針は何周しただろうか。  もう、何を言えば解放されるのかも思い出せなくなり、ごぽっと後ろから白い液が溢れるほど注がれる。  心も脳もとろけ、気を失う寸前に、『晩ご飯食べて行きます?』と顔を出したミョンによって救出された。 〈ドロテ視点〉 「可愛い」  あと一時間くらいは楽しみたかったのだが。部屋の主にメガホンアタックされてツェイをしぶしぶシャワーまで運んだ。着替えさせると目を閉じ、ツェイは一瞬で眠ってしまった。地震雷火事が起きても朝まで目覚めないであろう深い眠り。  眠っているツェイの頬をつんつんとつつく。 「ミョン君のベッドで寝てるのが最高に気に入らないけど。寝顔、可愛い。襲っちゃいたい」 「絶倫ですかな? 貴殿は」  鯖うどんをずずーっとすする。とろろが冷たくてのど越しが良い。  窓を全開にして換気した部屋で、簡単なご飯中。ドロテもベッドにもたれてうどんの汁を味わう。さっぱりしていて暑い季節でも食べやすい。 「でさあ。はっきりさせておきたいんだけど。ミョン君は本当に? ツェイに気が無いの? こんなに可愛いのに?」 「『惚れたフィルター』がきれいにかかってますな……。んーーー友人止まりですな~」  適当に味付けしたサバの切り身を大きく齧る。 「でも? 貴殿が以前のようにほったらかしにすれば? 横からかっさらうかもしれませんけどね。勿体ないので」 「……」  むううっと睨んでくる。こういう時のドロテはあまり怖くない。 「それと。同士に絡んできたクラスメイトを背負い投げするのはやりすぎですぞ?」 「? 窓から捨てればよかった?」 「三階くらいなら着地できると思いますが……。万が一、足をくじいても駄目なのでやめましょう」  ※ネコ界の話なので、クラスメイトを窓から捨てないでね。 「だって。ツェイに気安く……。俺に喧嘩売ってるとしか思えないよ!」 「……いやあの時まだおたくらが付き合っていることを知ら……。もういいです。しっかりにおいをつけてマーキングしておきなされ」 「そ、そうだよね」  と、そこで。地震雷火事でも起きないと思われたツェイが目を開けた。 「ん~? ……。……? あっ! お前らだけ飯食ってる! ズルいぞ! 俺にも寄こせむぎゃーっ!」 「「……」」  起きないと思ったのに食欲で起きてきた。でも起き上がる体力はないのかひっくり返ったまま、ベッドで手足をじたばたさせている。あまりの可愛さにドロテが初孫を見るような表情になり、ミョンは「うるせえです」と口をひん曲げていた。 「うどん! うーどーんー!」 「はい。あーん」  食べさせてあげる彼氏。  つるつる。 「……おいひい」 「あの⁉ ベッドの上で食べるのやめてもらえますかな?」 【終わり】

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