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第4話 文化祭練習編
「寝とる!」
まず起きたのは俺だった。夢の中で小道具作りが全然終わっていないことをクラスメイトに叱られた夢で起きた。
三匹がもたれあっていたので、一匹欠けたことでドロテとミョンはバタバタと倒れ、そこで目を覚ます。
「んあ?」
「ふああぁぁ……」
ミョンは眼鏡を外して目を擦り、ドロテは牙が見えるほどの大あくびをする。
「寝てしまいましたか」
「ツェイ~? 今何時?」
「え……ギャアアアお前ら同時にこっち向くな!」
寝起きにイケメンビームはキツイ。しかも眼鏡を外しているせいで威力が二倍になっている。ケツ向けて蹲る俺に、ドロテは幸せそうにほっこりし、ミョンはスチャッと瓶底を装備する。
「同士は元気そうですな……。もうこんな時間⁉」
時計を見上げると、もう家に帰って夕食を食べ終えている時刻だった。俺は急いでスニャホの電源を入れる。
「ほああああ!」
母ちゃんから大量のメールが!
真っ青のムンクになる。
「やっべえええ。叱られる。尻ぶっ叩かれる」
「え? その光景見たいからついて行っていい?」
「絶対来るな」
ばたばたと鞄に持ち物を詰めこんでいく。
「あああ小道具何も完成してないのに」
「明日やりましょう。明日」
「久しぶりにぐっすり眠れたよ。ツェイがいたからだね」
ぴとっとくっついてくる。
帰り支度の手を止めた。
「なんだ? いつも眠れないのか?」
艶やかな黒髪を撫でる。手触りが良くてびっくりした。夢中で撫でる。
「んん~。気持ちいい……。ツェイが横にいてくれたら眠れる気がする」
「ふーん? じゃあ、ガキの時みたいに一緒に寝るか?」
「! いいの?」
にこっとネコスマイルを見せる。
「もちろん」
「嬉しい」
イチャイチャイチャイチャ。
「……」
真顔ミョンに蹴り出された。
🐱
文化祭準備二日目。
教室の隅の方で作業しながら、主役陣の練習風景を眺める。
魔王を鼠に化けさせ、それをぺろりと食べたネコ勇者のその後を描く物語。ネコ勇者はその力をもって王国を守る騎士となった。
『国の平和を乱す悪党め! 成敗してくれる』
『げ、あいつ。勇者だ。本物だ!』
『ギャアアア――』
女の子を人(ネコ)質にとった悪漢をばっさばっさと斬り伏せていく。
『大丈夫ですか? お嬢さん』
『ありがとうございます』
助けた女の子の正体は、隣国のお姫様だった。
「はい。カットカット!」
「ドロテくんお疲れ~」
「か、かっこよかったよぉーッ」
監督役がカットをかけると同時に見守っていた女子がわっと群がる。でもやはり、俺にはカエデさんの表情が暗いものに思えた。
ミョンの隣から舌打ちが聞こえる。
「なんだあいつ。練習でもない打ち合わせ段階だってのに熱演しすぎだろ」
おかげで他の役の棒読み加減が目立つ。
(そりゃ彼氏が見てますからな……。かっこつけるでしょ)
ダルいのでミョンはそのツッコミは破棄した。
背景のセットを作る設計図を書いている。ミョンはさっさと線を引いていく。
「……なんか、手慣れてるな」
「拙者。建築の道に進みたいゆえ」
「そっか。留学するって言ってたもんな……」
しゅんと茶色耳を垂らす。
ミョンはくいっと眼鏡位置を調節する。
「なんですかその耳は」
「だーって。寂しいじゃん」
「貴殿はドロテ氏といちゃこらしておきなされ」
「……」
ミョンもいなきゃ嫌だなーと思いながらも、手を動かした。
放課後。
忘れ物に気づき教室に取りに戻ったドロテが一向に下駄箱に戻ってこないので、俺たちは何かあったのかと、教室にのろのろと向かった。
教室に入ろうとしたところで耳がピピンと揺れる。話し声を拾ったのだ。
「ドロテ氏――」
気にせず声をかけようとしたミョンの腕を掴み、隣の教室に引きずり込む。
「ちょ! なんですかな?」
「シィイ―――。静かにっ」
ミョンの口を塞ぎ、彼が黙ったところで、そろっと自身の教室を覗く。
「同士?」
「あれ見ろ」
ひそひそ囁き合い、窓際を指差す。
夕暮れの風がカーテンを揺らす教室で、二匹の男女が向かい合っていた。眼鏡位置を微調整し、ミョンはむむっと目を細める。
「ドロテ氏と。あれは……カエデ氏、ですかな?」
「この雰囲気。きっと告白だぜ! わくわくするな」
「貴殿はわくわくしてないで邪魔しに行っていい立場だと思いますが?」
俺の瞳が輝いているので聞こえていないだろうことを察したミョンは、面白いので見守ることにする。
「先生に相談するのがいいんじゃない? あの先生。めんどくさがるけど話せば分かってくれるよ?」
カエデさんは胸の上で手を握る。
「……でも、さきほど主役頑張れよって、言われたばかりで。言い出しづらくて……」
盗み聞きしている俺たちの耳がピコピコと動く。
「告白じゃないな……」
「良かったですぞ。重い話じゃなくて」
告白じゃなかったので堂々と教室に入る。
「ドーロテ。帰ろうぜ~」
「興味失くし過ぎでしょうに……」
急に入ってきた男子二匹に、カエデさんはと尻尾をピーンと立たせて驚いている。クロネコの方は特に驚いた様子もなく、身体を俺の方に向けた。
「迎えに来てくれたの? ごめん」
「いやそれはいいんだけど。なんかあった? 俺らも手を貸すぜ?」
俺ら……。勝手に数に入れられているミョンが、俺の背中をドスドスと指でつつく。
抗議の意味だったのだが、伝わってなかった俺が振り向いてバチコンとウインクすると、伝わっていないようで絶望していた。
ドロテがどうする? と目配せして、少し迷ったようだがカエデさんはこくんと頷く。
ドロテの話ではカエデさんはお姫様役をやりたくないようだ。
カエデさんは震えながら話す。
「わ、私が美しいばかりに――……。友達はカエデしかいないって言ってくれましたけど。私は、大きな声を出すのが苦手で。……これも全部、私がネコ並外れた美ネコに育ったばかりに。私が、いけないのです」
「「「……」」」
男子三匹は懸命にツッコミを控えた。彼女は真剣に話してくれているのだ。
「じぶ」
それでも何か言いかけた俺の口を左右のネコが手のひらで塞ぐ。
「まあ。お姫様とはいえ、劇をするなら舞台の外にいる客に聞こえる声量は、求められますからな」
「カエデさんは、本当は裏方が良かったんだって」
男子の瞳がカエデさんに向けられる。
この美貌で裏方は難しい気がする。存在感がありすぎる。ドロテが『通行人A』をやってるくらい違和感がある。
俺は鬱陶しくなって二人の手を剥がした。
「でも、カエデさん以外がお姫様になったら、それこそ暴動が起きると思うぜ? 男子はともかく。女子はみんなドロテの相手役がうらやましいけど、半端ない美貌のカエデさんだから文句が出ないだけデッ」
ミョンが口を塞ぐ。
「そうですな。カースト頂点のカエデ氏だから無事なだけで、半端な位置のものがお姫様役になったら悲惨でしょう」
カエデも肩を落としてうつむく。気が強くない彼女では、いじめられる子を守ってやれない。
ミョンはビシッとクロネコを指差す。
「というか、ドロテ氏! 貴殿が王子様役なままでは、この話は解決しませんぞ」
ドロテは狼狽える。
「そんな。どうしろと?」
くいっと親指で廊下の先を示す。
「そこの階段で足でもくじいてきなさい」
「そんな器用に出来ないよ?」
「背中押してあげますから」
「物理的に押す時に言う台詞じゃないソレ!」
わちゃわちゃしている二匹を無視し、俺はうむむと思考をめぐらせる。
「カエデさん並みの美ネコなら。文句は出ないんじゃない?」
「……おられますか? 私以上に美しい方が。ドロテさん以外に?」
このくらい自分に自信もって生きたいよな。
俺と俺の幼馴染が同時にミョンに顔を向ける。他人(ネコ)事のように白けていたミョンがハッとなり、ぴゅうっと逃げ出す。足速いなあいつ。
自分の運動能力を理解している俺は、ポケ〇ントレーナーのように指を差した。
「ゆけ! ドロテ。捕獲しろ」
「うおおおおお!」
クロヒョウのような迫力で突進してくる友人の彼氏。
「――――ッッ!!?!」
声にならない悲鳴を上げたが、五秒後、ドロテはミョンの首根っこを銜えて戻ってきた。
褒めてほしそうに俺に見せびらかすので、黒い頭をわしゃわしゃしてやる。
「ナイス! ドロテ。流石天の贔屓だな」
「ふへへへ」
「……」
ミョンは涙を流したままぷらーんと揺れている。
「あ、あの。なぜミョンさんなのですか? たしかに肌は白くて毛並みもお美しいですが――……」
カエデさんから当然の疑問が飛ぶ。
「「……」」
じろっと視線が刺さるも、ミョンは知らん顔で襟を直している。
「おい。カエデさんが気の毒だと思わんのか?」
「マジで言ってます⁉ 文化祭の劇でBLやる学園など聞いたことありませんぞ⁉」
「時代って感じがしていいじゃん」
「だまらっしゃい! 何を笑っとるんです。貴殿は同士をお姫様役に推薦なされよ!」
「俺の顔面だと皆を納得させられないだろ」
「悲しいことを堂々と……はあぁ」
ミョンはため息をつくと……教室を出て行った。すぐに俺とドロテに捕まる。
「今引き受ける流れだっただろ!」
「はああああ⁉ 台本には王子と姫がキスする(ふりをする)シーンもあるんですぞ。悪夢にうなされたくないですな!」
「俺だってやだよ」
「断りなさいよ!」
五分ほど四匹で話し合ったが行き詰ってきたので、諦めて先生に相談に行くことにした。何か知恵がもらえるかも、と思ったのだ。
「ん~? でもなぁ。衣装係がもう作り始めちゃっているし。ドレスを。カエデさんも、いい経験になると思うよ? 声が出ないなら発声練習すればいいんさ。劇を成功させるために、クラス皆で協力する。これぞ文化祭の醍醐味じゃん? 大丈夫大丈夫」
四匹は言葉に詰まった顔で職員室から出てくる。カエデさんにいたっては顔が白い。
「うちの先生って前向きだよな。先生が一番文化祭楽しみしてるし」
「なんですかあのいい笑顔は」
「ごめん。役に立てなくて。あとは……クラスでもう一度話し合ってみる?」
「そ、そうします。ありがとうございます。皆さん」
カエデさんは俺たちにまで丁寧に礼を述べると、とぼとぼと帰って行った。
翌日。お姫様役だけ投票し直すこととなったのだ。衣装係と男子は反対していたが、カエデさんの潤んだ瞳プラス上目遣いの『お願い』攻撃で一撃だった。さすがこのクラスの太陽だ。
でも女子は誰もやりたがらない。別クラスにもいるドロテのファンの襲撃を恐れたのだ。
「じゃ、じゃあどうすんだよ」
「カエデさんのお姫様姿が……」
「貴女やりなよ~」
「む、無理よ! ドロテ君のおおお、お姫様役なんて。心臓がもたない!」
ざわつく教室内。
退屈なのか、一人の男子がからかうようにミョンに絡んでいく。
「お前やれば? プクッ……ぴったりじゃね?」
「おーおー。笑えねぇぞ。そんなもっさり野郎」
ミョンも後ろの席の俺も男子の幼稚な行動にうんざりしていたが、ドロテがいらんことを言う。
「いいんじゃない? ミョン君、眼鏡取ったら超美人だったし」
ざわっ……と、教室内の空気が変わる。
主に女子がギラリと獲物を狙うような目つきになり、男子がその空気に恐れて息を呑む。
ドロテに殺気を飛ばしていたミョンはたまらず席を立った。
「い、いやいや! 拙者はごめんですぞ」
後ろの俺を盾にするようにしがみついてくる。友人なので守る意味を込めて抱きしめ返すと、ドロテがぐるりと振り返った。
ギャアアア怖っ! 前向いてたくせに後ろの出来事に反応するな。
「マジかよ! 眼鏡取れよお前」
「う、嘘だろ? 眼鏡の下絶対『3』になってると思ったのに。そんな少女漫画展開許さんぞ」
モテない男子が手を伸ばしてくる。俺がばしばしとその手を叩き落とす。
「ええい。ミョンに触るな。そんなに嫌なら俺がやってやるよ!」
両手を上げてぐわっと立ち上がっちゃった俺にクラスメイト全員が口を開ける。いやなんでお前やねんと、その顔が物語っている。
だが――、
「ツェイ……。嬉しいよ」
「ツェイさん! 応援してますわ!」
盛り上がる二大巨頭。
「「「⁉」」」
イケメンとカースト頂点の拍手により、可決となった。
「ツェイ。ツェイ~。嬉しい。うれしい」
「ぐるじいって……」
ミョン宅再び。
俺に抱きつきとろけた笑顔で頬ずりしてくる。ミョンは刺身で盛りつけされたツナ味のプリン・ネコ用・アラモードを俺の前に置いて仏壇のように手をわせると無言で去って行った。なになになに⁉ 怖い!
俺は教室での出来事思い返す。
可決となった後、先生は何か言いたげだったが「まあ、お前ら幼馴染だしな」と最後に爆弾を投下していった。黄色い悲鳴が上がり、「え? お前らホモかよ」と笑いながら俺に肩を組んできた男子をドロテが背負い投げしたので、俺たちの関係はあっさりとバレた。
『イケメンと美人に挟まれる平凡男子……ってこと?』
『三角関係? ごくり』
『あ、あの告白は誰から? ドロテ君? ミョン君?』
ミョンも盛大に巻き込まれていて笑った。
気まずくなるかな? と不安だったが女子全面的に味方に付いてくれたので怖いものは無い。
「ツェイが俺の相手役に立候補してくれるなんて……。この流れで結婚する?」
やばい。幼馴染の頭が俺以上のお花畑と化しとる。ミョンはこれをめんどくさがって逃げたな。
俺はドロテの顔に頭をぐりぐりと押しつける。ツェイドリル。
「そんなことよりどうしよう! 俺こんなに、台詞覚えられない!」
笑顔のカエデさんから手渡された台本。姫は前半出番無いが、後半は王子と絡むためどうしても台詞量が。
「一緒に覚えればいいじゃん」
もう何をするにも嬉しそうなドロテが身体ごと擦りつけてくる。ああー。翌日ドロテ君のにおいがするとか言われそう。
いやそうな顔で俺は台本を開いた。
「無理だって。こんな、こんにゃ……」
眉と耳が垂れている俺に、ドロテは秘策を思いつく。
「なにかご褒美とか罰ゲームつける?」
「は?」
「ツェイが台詞間違うたびに~とか、一度も間違えなかったら~とか」
ほほう。物で釣る作戦か。
「面白そうじゃん? 俺が間違えなかったら明日発売のカードゲーム一パック(180円)買ってもらうぜ!」
「いいよ? その代わり間違えるたびにキスするからね?」
「フハハ! 言ったな? これでカードゲットだぜ。家の手伝いさぼったせいで今月お小遣い減らされてピンチだったんだ~。はっはっはっ。バカめ! やったろうやないけ!」
「んんっ……キスだけって言ったじゃん!」
「だからキスするんでしょ? 同じ場所を十二回も間違うなんて、俺にキスされたいの? それなら嬉しいけど」
「違うもん!」
逃げようとしたががっつりと尻尾を握りしめられる。
「ヒィィ! そこ駄目!」
「可愛い。ふかふかの尻尾」
尾の先を親指でぐりぐりと擦られ、へたっと腰が抜けた。
「~~~ッッ……ゃだぁ……。そんな風にされるの。アッ……」
「次逃げようとしたらまたリングを尻尾につけるからね?」
尻尾の根元部分をさらりと撫で上げられ、ゾゾゾっと寒気が背筋を駆け上がる。
「そんな……、アレつけられたら、台詞覚えるどころじゃ、あ、やだ」
制服のボタンを外され、左乳首に吸いつかれる。
「アアッ! 馬鹿ッ。あ、ああっ……」
「別に場所の指定はしてなかったでしょ? 唇だけにキスするなんて、言ってないよ?」
こ、これだから頭のいい奴は!
最後にぺろりと突起を舐めてから唇を離す。ぴくっと跳ねた後、床の上でくったりと寝そべる。
「うう~」
「ほら。いつまでもエロい顔してないで。次の台詞」
パンパンと台本を叩く。
うああああん! 思った以上にスパルタだよこいつ。もっと優しく練習に付き合ってくれると思ったのに。
「く、くそう。えーーーっと。『ああ、オミロ。あなたはどうしてオミロなの? ……そ、その名前を~……』なんだっけ?」
「『その名前を捨てて私だけを見てくれれば』」
「なんでお前! お姫様の台詞まで覚えてんだ。脳みそどうなってんだ! 交換しろ!」
「賢くなったツェイなんて魅力減じゃん。やめな?」
「おおん?」
ムカッと拳を丸めるも、
「言えなかったからキスするね?」
首筋を甘噛みしてくる。
「ちょ、そこは汗かいてるって!」
「しょっぱい」
舐めるたびにぴくぴくと身体が揺れる。ドロテは頭上の耳にかぷっと噛みつく。
「ひいっ」
「ツェイって全身弱点だよね~」
「そこ、んん……やだって」
耳を舐められるたびに熱が高まり、それが下半身に溜まっていく。抵抗するとまた尻尾を掴まれると思うと、ドロテの制服にしがみつくことしかできない。
「ぐ、んっ……はあ」
「何? いやらしい気分になってきた?」
「そ、んなわけ、ひうっ」
ちゅっと鎖骨にキスされる。
「あう……っ」
「可愛い。襲っちゃいたい。いいよね? 俺の相手役なんだし」
俺を床に押し倒したところでドアが開いた。
「ただでさえBL劇になっているのに。学生の劇でR指定とかシャレになりませんぞ」
メガホンで頭を軽く叩かれる。ぽこんといい音がした。
入ってきたミョンは、サングラスに上着をマントのように首に巻き付けた監督コーデになっていた。
俺が笑って噴き出し、ドロテはそっとドアを閉じようとする。
「これ! 閉めるんじゃありません。風紀が乱れないよう、拙者が監督しますぞ! こうなると思っていましたからな」
ディレクターチェアに腰掛け、形から入るミョンが足を組んで座る。俺はむくっと起き上がる。
「ミョン……。似合うな」
「はいどうも。とにかく! 覚えるには声に出して耳から記憶するのが良いと聞きましたぞ。台本は声に出して読むべし!」
「うっす……」
ミョンがおかしなテンションになっているが、俺たちがいけない空気にならないようにとの配慮だろう。おかげでドロテが見たこともない不満顔をしている。
「邪魔しないでよ」
「ここどこだと思っとんです?」
「ラブホ」
監督とドロテのガチ目の取っ組み合いが始まったので、台本を持ったまま部屋の隅に逃げた。
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