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最終章・ライバルの君と永遠の愛を誓う③

◇◇◇  ルキノは伯爵家の中庭を忙しなく走り回っていた。  今日は結婚式前日のリハーサルの日だ。会場設営に、料理の手配まで主にルキノが担当している。オライオンも運用の大半を手伝ってくれていた。 「ルキノ、衣装のチェックをお願いしたいんだけど」 「少し待って!料理のサンプルの味見をしておかないと!」  オライオンに呼ばれたが、明日は結婚式当日。最終チェックを行っておかなければ不安で仕方ない。  研究も佳境に乗り上げてきている。寝る暇もなく結婚式や研究に忙殺されていた。  オライオンの横を通り過ぎようとしたとき、腕を掴まれて動きを強制的に止められてしまう。 「花嫁は明日に備えて休んでおくほうがいい」 「でもっ……んむっ」  長く節ばった人差し指が唇へとあてがわれる。オライオンがルキノに向かって慈愛のこもった瞳を向けてきた。  説教をされてしまうと無意識に身構える。 「あとは俺に任せて。休んでくれないと心配で結婚式どころじゃなくなってしまう」  目元にできたくまを優しく撫でられる。  渋々頷いたルキノは、不貞腐れたように唇を尖らせた。 「衣装のチェックだけして休むから……。それでいいだろう?」 「うん。約束だよ」 「わかったよ」  オライオンにはいつまで経っても勝てる気がしない。魔法を使い簡単に設営を済ませていっているオライオンのことを横目で睨む。  こういう瞬間は、やはりルキノの高い自尊心がオライオンに微かな闘争心を燃やしてしまう。一生を添い遂げるパートナーになったとしても、オライオンが目標であることに変わりはない。  争う気はない。一生を尊重し合いながら生きていければそれでいい。  衣装部屋に向かうと、純白のタキシードが一対ハンガーにかけてあった。結婚式のためにレオナルドが用意してくれた一張羅だ。  レオナルドのことも少しずつだけれど理解できるようになってきている。伯爵家の運営は大変だ。気を使うことは多い。常に厳格なレオナルドの態度にも納得できる部分はある。  だからこそやりがいも感じていた。ルキノは努力することが好きだ。できないことをできないままで終わらせたくはない。毎日自分を研磨し、高みを目指す。そうすればいつかは、憧れであるオライオンにだって近づいていける。 (ローディン様とエイリークも明日は来てくれるはずだ。そのためにも休まないと)  衣装チェックを終えると自室へと戻る。  鍵付きの引き出しを開けると、いままでオライオンから受け取った手紙が何十枚もまとめられている。手紙をまとめていた麻紐を取ると、テーブルへと手紙を広げる。  懐かしい会話。懐かしい気持ち。この手紙があればいつだって当時のことを振り返ることができる。  一枚に魔力を込めると小鳥へと変化した。指を差し出すと、そこに飛び乗り鳴くように嘴を広げる。  ルキノが最も好きな魔法。愛する人から与えてもらったら愛おしい小鳥。 (いつかまたルーナディアの花を見に行こう)  その時にはきっと、ルキノの取り巻く環境も大きく変化しているだろう。 「ルキノ起きていたのか?」 「もう休むよ」  心配で様子を見に来てくれたのか、オライオンが部屋へと入ってきた。椅子に腰掛けるルキノを背後から抱きしめてくれる。 「懐かしいな」 「うん。僕の宝物だ」  オライオンが手紙へと手を伸ばす。 「この小鳥のように、俺に声という翼を与えてくれたのはルキノだ。君は素晴らしい魔法使いだよ」  与えられた賛辞の言葉が胸の奥へと染み込んでいく。涙が流れ出したのは、自分の努力や心がこの瞬間に報われたように感じられたから。  優しく髪を梳いてくれるオライオンへお礼を伝える。そうしてどちらともなく唇を合わせた。 終わり

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