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プロローグ 【R18】

 まだ幼かった頃。  魔王城の近くで、キレイな「水晶蝶」を見た。可憐な花からふわりと飛び立って、その煌めきが美しくて。  思わず追いかけた。走って、もっと見たいと思って。  でも————突然僕の後ろから、重い闇の力がざわっと飛んできて、蝶を射抜いた。  水晶が空中に四散し、壊れて、塵になって消えた。呆然とする間もなく、後ろから重い声が響いた。 「アルガ、訓練の時間だ」  父の冷たい声には、言葉自体に闇の魔力が宿っていて、それは聴いたものを即座に従わせる。でも、例え魔力が宿っていなくとも、僕は父が怖くて、彼の言う通りにするしかなかった。  逆らえない。僕は、生まれ落ちた時から魔族だ。そして父は歴代の魔王の中でも、最恐と言われた。「陽光の国」を侵略して、数々の勇者や戦士も、父の前に敗れた。  ———————— 「なあ。お父さんに、そんな顔見せたことないだろ」  優しいのに、少し意地悪な声が耳元で響く。身体はもう限界まで敏感になっていた。 「んっ…ふっ…」 「俺だけに見せろよ、『最恐の魔王』の、乱れる姿。可愛い喘ぎ声————」 「や、だっ……や…やめッ」  甘い声が漏れてしまうのを、なんとか抑えようと片手で自分の口を塞ぐ。でも、それは彼の手によって、簡単に剥がされてしまう。 「可愛い…」  そんな、愛おしそうな瞳と熱に絡め取られ、視線を逸らすこともできない。 「アルガ、お前が1番だ—————誰が何と言おうと、君が1番優しくて、美しい」  そっと、頬をなぞる指。ソルは俺を、「暗闇に咲く水晶蝶」だと言った。彼の言葉には光の魔法は込められていないはずなのに、身体の芯がじわりと温められ、その愛に包み込まれて、全てが溶けてしまいそうだ。 「んっ…あ、ッ、ソル、だめ…そこっ」  言葉は優しいのに、彼の手は止まらない。激しさを増して、身体がどんどん熱くなっていく。 「……なあ、イき顔見せて」  まるで悪戯っ子のように、微かに口角を上げたかと思うと、その指が的確に敏感なところを責めあげる。瞬間、電流のような快感が走った。もう、ダメだった。我慢なんてできない。 「あ、あっ…や、イく……!!♡」  身体中が大きく痙攣する。もう何も考えられなくて、ただ、快感と心地よさに溺れる。  そんな俺を、ソルは満足に見つめて、それから優しくキスを落とした—————  1ヶ月前、勇者ソルは、この魔王城に、俺を討伐に来た。魔力が衰え始めた父さんの代わりに、彼の王座を引き継いで俺が城を守っていた。父さんは俺に期待していた。  燃えるようなオレンジの髪を持った屈強な戦士に、俺も全力で応戦し、激しい戦いとなった。でもやがて、俺は彼の前に崩れて……そして、包まれた。  ソルは—————強くて、優しかった。

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