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第1話

「ちわーッス、シロネコ宅配便でーす」 彼は22歳年下のバイトだと訊いた。 小麦肌で夏も冬も問わず、玄関の前に立つ彼の額には汗が浮かんでいた。 爽やかな笑顔と共に見える白い並びの良い歯。 程良く付いた筋肉は重い荷物を運ぶ彼らしく逞しく、艶かしい。 「ちーッス」 輝明(てるあき)は下心満載でそんないつも運んでくれる宅配便の彼から荷物を受け取った。 シロネコくん─……宅配会社の名前が『シロネコ宅配便』だから本名も知らない彼の事を輝明は『シロネコくん』と呼ぶ事にしている。 そんなシロネコくんと出会ったのは去年の秋。 輝明は勤めていた会社を辞め、勤務地で借りていたアパートを引き払いそんなに距離は変わらないが隣の区でまたアパートを借りた。 心機一転のつもりで─……。 会社を辞めた理由は色々あるが1番大きな理由は輝明が『ゲイ』だという事がバレたのが1番大きな理由だった。 閉鎖的な会社で上司も同性愛者は異常だと捉える人種らしい。 それに伴って社員達からも風当たりが強く、輝明に対して陰湿な嫌がらせをしていた。 見て見ぬ振りをする上司とその部下達。 そんな空気の悪い所に輝明の居場所なんて無かったし、それ以前に輝明はこんな所に俺の居場所があってたまるか、とも思っていた。 会社側は『異常者』なんて要らない、輝明もそんな会社の1員だと思われたくない。 会社と輝明の利害は一致した為、輝明は会社を辞めることを決意した。 会社を辞める事は決して逃げなんかじゃない。 それでも、世間からの目は厳しい時もあるし実際43にもなる立派なおじさんである輝明の再就職先なんてたかが知れていた。 輝明は適当に貯金で食い潰している時、ふと思い立った。 元々、小説を書くことが趣味だった輝明。 何かを文章で書き上げる事が好きだったのを思い出した。 会社に使い潰されなんとなく生きてきた輝明の目に、再び生気が戻った瞬間だった。 もういっその事、この歳で就職先が決まらないままハローワーク通いを続けるのなら、自分の経験や感情を形にして残したい。 自分の想いを、『ゲイ』という自分を隠さずに自分を文章を通して正当化したい。 そんな綺麗事を言っているけど、ただ単に輝明は書きたかった。 小説を、また、書いてみたかった。 輝明の第2の人生は小説家だった。

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