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第2話

「じゃあ、ここにサインお願いしまーッス」 シロネコくんは相変わらず爽やかな笑顔で輝明に笑いかける。 それが輝明の劣情を煽るとも知らずに。 シロネコくんの首筋から垂れる汗、もう秋だと言うのに何故そんなにも汗が垂れるのか。 (代謝の悪いオジサンには理解出来ん……) ただ額から流れ、首筋に伝うその汗は紛れもなくシロネコくんの中から出てきた物で、それらはシロネコくんを創り出していたモノ。 そう思うと何処と無く舐め取りたくなる衝動に駆られる。 (いかんいかん) 若い者に手を出して将来を潰す事だけはしたくない。 輝明は柔く頭を振り、邪心を追い払う。 輝明はシロネコくんからペンを受け取り、適当に名字を書いて丸で囲む。 角張った雑なその文字は男らしく、それでも輝明は自分の書く字はなんとなくあまり好きではなかった。 (俺が後悔している事を俺がしてどうする……) 「それじゃあ……」 「あ、ちょい待ち」 シロネコくんにペンを返した途端、シロネコくんは1つ会釈をして立ち去ろうとしてしまう。 今まではそれで良かった。でも。 輝明は、シロネコくんの腕を掴み引き止める。 「はい?」 コテンと首を傾げたシロネコくんを可愛いと思いながら、輝明はその持ち前のポーカーフェイスで笑いかける。 「今、時間あっか?」 内側から絞り出した必死の言葉。 輝明はこの言葉を口から出すまでにどれだけかかっただろう。 去年の秋からどれだけ来てもらっていただろう。 「あ、はい大丈夫ッスよ! なんかありましたか?」 シロネコくんは爽やかに了承した後、どうしたのかと不安そうな顔をする。 その表情を見た輝明はグワッと何かに心臓を鷲掴みされた感覚になる。 「あ、いや特にねぇんだ。ただ、ちと待っててくんね」 そう言い捨て、輝明はいそいそと部屋に戻り冷蔵庫を開けて中からキンキンに冷えた麦茶のペットボトルを取り出し、また玄関へと戻る。 「これ、いつもあんがとなってヤツ」 輝明はニコッと笑いかけ、シロネコくんに差し出す。 顔は平気でも輝明の中では大変な事になっていた。 (……なに、小っ恥ずかしいことしてんだ……俺……) 営業で身につけたスマイルは本当に役に立つ。 仕事していて唯一良かったのは営業スマイルが身についた事だろうか。 輝明は別な事を考えて心を落ち着かせようとした。 (…………クソ)

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