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第6話

「……んで、……」 「え?」 ボソッと呟いたのを輝明は聞き逃さなかった。 颯はバッと顔を上げ、物凄く怒った顔をしていた。 そんな顔に輝明は呆気にとられ、見つめてしまう。 「なんで……っ、そんな事言うんすかっ?! 輝明さんがゲイだからなんなんスか?! なんでそんな自分を自分で傷つけるような言い方をするんスか!?」 「……は、颯……?」 突然の怒号に輝明は混乱した。 何故こんなに彼は怒っているのか理解ができなかった。 輝明の事なのに、どうして颯が怒るのか。 「輝明さんは何も悪くない!!辞めたのがゲイだから?!そんな理由?! そんな理由で輝明さんは辞めるまで追い詰められなくちゃならなかったんですか?!有り得ない、そんな世界……気持ち悪すぎる……っ」 颯はポロポロと涙を流しながらそう、怒鳴った。 (……そう……だ。……俺は男が好き……好きなだけなんだ……。好きなだけだったのに、俺の居場所は無かった。……そこに居ていいって思われなかった……男が好きなだけで……必要と、されなくなった……存在を、否定され続けた……) 輝明の中に思いが溢れ出す。 なんでこんなにも苦しいのか、颯の泣き顔があまりにも苦しそうだから、輝明も苦しくなった。 輝明は煙草を灰皿に押し付け、ゆっくりと颯に歩み寄った。 颯はズビッと鼻をすすり涙を零しながら真剣に俺を見つめ続けた。 「……颯」 「……輝明さんは何も悪くないです。好きなものを好きと言えた輝明さんは強いんです。 悪くなんか決して無いんです……。 だから笑わないでください。 ……自分を卑下して、これ以上、笑わないでください……っ。そんなの、強さじゃない……!!」 輝明は、引き寄せられるように颯の唇へと己の唇を合わせた。もう、口を開かなくていいと、己の為に涙を流さなくていいと、そう伝える代わりに。 「……て、輝明さ……っ」 「……ごめんな。泣かせて、ごめん」 輝明は颯を抱き寄せた。 ずっとこうしたかった。 でもそれは、泣いてる颯をじゃない。 いつものあの笑顔の颯を抱き締めたかった。 「……ごめんな。ありがとう……颯……」 「……輝明さん」 颯は輝明に大人しく抱き締められながら、暫くそこに居た。 仕事は大丈夫なのかとか、ゲイに対して何も思わないのかとか、言いたかったけど今はそんなこと言える雰囲気じゃなかった。 そして輝明も、まだ腕の中に颯を閉じ込めていたかった。 自身の為に泣いてくれた唯一の人を、この時間(とき)だけ、縛っておきたかった。

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