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第5話
輝明とシロネコくん─……元言い、颯はあれ以来届け物の度にちょっとした話をするようになっていた。
22歳年下の男と何故こんなにも楽しく話せているのか。理由は初めから分かっていた。
輝明は颯が好きだからだ。一目惚れだからだ。
「輝明さんは凄いですよね!俺、小説なんて読めもしなけりゃ書けもしませんもん」
颯は明るく無防備に笑う。
可愛いな、とそこら辺の野良猫に思うような軽い気持ちで輝明は思う。
そんな気持ちにまで落ち着いてきたのはきっと、気軽に話せるようになったからだろう。
手に届く距離になったから。
「まぁこの年で会社辞めた奴がまともに再就職出来るとも思えねぇしな」
「そう言えば輝明さんはなんで辞めたんですか?」
颯は思い出したような顔をして輝明を見た。
輝明は煙草に火をつけ咥え、息を吐きながら返した。
「俺、ゲイだから。異常者には居場所がねぇんだよ」
ちょっと言ってみようと思った好奇心だった。
言ったらどんな反応するのかな、って。
終わるなら終わるでいいし、輝明は何も期待していなかった。だから言ってしまった。
言わなきゃ良かったのに。
言わなかったら、この関係が続いたのに。
「……え?」
颯の怪訝な表情を見て、輝明は目を逸らすしかなかった。
これ以上顔を見ていたら、心が締め付けられて本当に止まるかもしれなかったから。
輝明が自分から言い出した事なのに、こんなにも怖いことだったんだ。
会社で散々嫌がらせをされていた時の事を思い出す。
時折、フラッシュバックする昔の情景。
(馬鹿だな、俺……)
輝明は靴を脱ぎ1本段差を上がって煙草を咥えながら颯に言った。
「ほらもう帰れ、仕事だろ。
あんま此処に行っとオッサン、ゲイだからキミみたいな若い子襲っちゃうぜ?」
悪戯っ子のような顔をして輝明は言い、しっしと追い払うように手を動かした。
その時の颯の顔を輝明は見ていなかった。
颯が俯いていたからよく見えなかった。
「颯?」
輝明は動かない颯を見て、声を掛ける。
そんなにショックだったか、と輝明は打ち明けたことを更に後悔した。
(……なんで言っちまったんだろうな)
後悔と自責の念にとらわれ、輝明は目を逸らしたまま煙草を吸い、吐くしかなかった。
こんなに苦しい雰囲気の中でも、呼吸が出来ることが今はとても、恨めしく思えた。
結局は、期待していたんだ。
輝明は、輝明自身を認めてくれることを。
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