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星空の出会い①

 星空に銀色の月が浮かんでいた。  エミーユの栗色の髪が夜風になぶられ、ハシバミ色の瞳に夜空を映す。  雨が降ったあとの草原は星に照らされてつやつやと光っている。湿った草の匂いが心を落ち着かせる。  エミーユは町外れの草原にある小屋に、一人きりで住んでいた。ときおり畑でできた野菜や、飼っているヤギの乳で作ったチーズを持って町に降りて、市場で塩やハチミツと交換する。  貧しいが、穏やかな暮らしぶりだ。 (今日は良い夜だ)  エミーユはバイオリンを構えた。18になった体には子どものころから使っているバイオリンは小さくなってしまったが、それでもバイオリンは寂しい夜の相棒だ。  しんとした星空に響く旋律。  出来るだけ丁寧に弾く。  誰に聞かせるでもなく自分のために奏でる。  弾いているうちに声が重なってくる。父親の弦の音に合わせて歌う母親の声だ。記憶に残っている温かい思い出。  バイオリンの音色がエミーユの心を慰める。    エミーユはハッとして目を開けた。弓を持つ手を止めた。  かすかな異音を聞き取っていた。  ぽっこぽっこ、とそれは次第に大きくなってくる。  それがゆったりと進む蹄の音だと気付いたとき、エミーユは小走りで小屋に戻った。  バイオリンを置いて、ナイフを腰ひもに挟んでもう一度外に出た。  草むらに隠れて様子をうかがう。  やがて、馬の姿が見えてきた。馬上で何かが揺れ動いて、ドサリと音がした。  騎手が落馬したようだ。  馬はその場で止まり、動かない。首を上げたり下げたりして、騎手を心配そうにうかがっている。  やがて、馬はヒヒンといなないた。  馬のいななきが悲し気に響く。  エミーユは長いこと草に隠れてじっとしていたが、十数回目に馬がいななくのを聞き終えると、移動した。  地面には騎手がうつむけに倒れている。 (せっかくの良い夜が台無しになってしまった)  馬がときおり首を下ろしては鼻で騎手をつつくが、ピクリとも動かない。 (死んだのかな)  なら安心だ。 (息を確かめておくか)  エミーユは右手にナイフを構えて、草むらから出た。  馬はエミーユに気づくと、首を振り始めた。騎手を鼻で指しては、エミーユに向けて首を振る。 <助けて>  まるでそう言っているようだ。 <お願い、助けて>  馬は騎手とエミーユを交互に見ながら首を振る。騎手のためにエミーユに必死で助けを求めている。 (死んだかどうか確かめるだけだ)  騎手の腰に剣があるのが見えた。 (兵士だ………!)  騎手からうめき声が聞こえてきた。まだ息があるらしい。 (兵士など……!)  エミーユはその場を立ち去るために立ち上がった。背中を向ける。このまま放っておけばいい。そのうち、死ぬだろう。  背後から馬のいななきが聞こえてくる。すすり泣くようなその声に、エミーユの足は止まってしまった。 (うるさい馬だ)  エミーユはしぶしぶ兵士のもとに戻った。  兵士に屈みこむと、うつぶせの体をひっくり返した。  兵士の体はエミーユよりもかなり大きいが、顔はまだ少年と呼べるほどに幼く見えた。エミーユよりも幾分若そうだ。 (こんな少年まで戦争に駆り出されているのか……)  エミーユはかなりてこずりながら少年を馬の背に押し上げた。そうやって小屋に連れて帰るしかなかった。

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