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星空の出会い②
小屋につけば、エミーユは少年をベッドまで引きずった。血でべとついている軍服をはさみで切って脱がせる。
少年は一瞬、意識を取り戻して呻いたが、また気を失った。
少年の左肩から右腹まで袈裟懸けに切れ目が入っている。傷口を糸で縫って出血を止めたが、少年の顔は土色をしたままだ。体温も低く、心音も弱まっている。
(このままでは死んでしまう)
エミーユはしばらく考えたが、やってみるしかなかった。
(こいつが獣人なら助けられるかもしれない)
少年はエミーユよりも幼そうなのに、体格は良い。獣人の可能性は十分にある。
エミーユは上衣を脱いだ。
そして、少年におおいかぶさり、目を閉じた。
(移れ)
しばらくの間、少年と肌を重ね合わせる。
(私に移れ)
そのうち、エミーユは胸に痛みを感じ始めた。
(うっ……、痛いなあ……。痛みまで移ってくるのか……)
エミーユが体を起こせば、エミーユの肩から胸にかけて赤い筋が盛り上がって血が出ていた。少年の胸の傷がエミーユに移ってきたのだ。
(もうちょっと引き受けても大丈夫かな)
エミーユはもう一度少年におおいかぶさった。
(私に移ってこい)
しばらくして体を起こす。
「イテテ……」
エミーユの胸の傷は先ほどよりも深くなっている。
これで少年の切れた血管も少しは治っただろう。
エミーユが少年の呼吸を確かめると幾分しっかりしている。顔色も心なしか戻ってきた。
エミーユは少年と自分の胸に蒸留酒を振りかけた。そして、少年の胸には清潔な布を当てておいた。
翌朝、少年の顔色は随分と良くなっていた。
(もう死にそうにないな)
エミーユは安堵するも、今度はこの少年をどうすればいいのかわからなくなった。
助けてはみたものの、起き上がって暴れられたら困る。
(どうして獣人なんか助けてしまったんだ)
傷を移せたことで少年は獣人であることの確信を得ていた。そして、自分に傷が移ってきたことでエミーユは、自身が妖人であることをまざまざと自覚している。
(困ったことになったな)
獣人などエミーユが最も関わり合いたくない人種だ。
少年の頬にはまだあどけなさが残っており、凶悪さはない。しかし、それでも用心に越したことはない。
(足でも痛めてないかな。それなら安心なのに)
そんなことを考えながら少年の足を持ち上げた。足は大きくずっしりと重い。
(これからまだまだ大きくなるな、獣人だしな)
少年の頑丈そうな足を確かめたが、足は何ともなさそうだ。
(利き腕が使えなくなってないかな)
少年の両手を見比べた。やはりその手はエミーユの手よりも二回りほど大きい。少年の右手に剣だこがあるため、利き腕は右だとわかった。両手とも痛めたところはなさそうだ。
(目でも怪我してないかな)
少年の目を見ると、まぶたの下でときおり眼球が動く。少年の目にも何も起きてはなさそうだ。
そこで、エミーユはひらめいた。
(目を怪我したことにすればいい)
エミーユは布で少年の両目を覆った。
(これでいい)
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