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発情④

 エミーユはマリウスを押し返して、ベッドからさっさと降りると衣服を拾い上げた。マリウスはエミーユの離れる気配に慌ててエミーユを追う。 「ま、待って、エミーユ。どういうこと?」 「ご飯はたっぷり食べていってください」 「エミーユ!」  マリウスは、離れようとするエミーユの手を探り当てて引き寄せると、背中を抱きしめる。 「エミーユ、エミーユ! どうして? おれ、こ、ここにいるよ! もう俺はどこにも行かない!」  エミーユは胸が詰まる思いだった。 (だめだ、だめだ、そんなの………! 私たちは一緒にいてはいけないんだ……!)  黙り込んだエミーユにマリウスが言い募る。 「エミーユ、俺、エミーユが好きだ。俺、エミーユと一緒にいたい。俺、エミーユとつがう!」 「つがう?」 「エミーユは妖人なんでしょ。本当は妖人だったんでしょ?」 「違う! 私は妖人じゃない!」 「エミーユは妖人だ。そして、俺は獣人だ。だから、おれたち、こうなった。エミーユ、俺とつがって? おねがい、俺、エミーユのこと大切にする。絶対大切にするから!」  エミーユの目から涙がこぼれ始めた。 (マリウス、あなたはきっと後悔する。こんなぼろい小屋で私と一緒にいたって良いことなんか何もない。そうしたら、私だって後悔する。この先、いいことがあるはずがない) 「マリウス、あなたに大切にしてもらっても嬉しくはない! ここから出て行ってくれ!」  マリウスはエミーユを背中からギュッと抱きしめる。 「いやだ! 俺、出て行かない!」 「マリウス、私なんかと一緒にいてはいけないんだ……!」 「どうして! エミーユ、どうしてそんなひどいことを言うの?」  エミーユは声を絞り出した。 「あなたは私の仇なんだ!」 「え?」 「わたしの父はグレン兵に殺された。そして、妖人の母は、グレン兵に連れ去られた。あなたは私の両親の仇だ!」  マリウスは固まった。エミーユを拘束する腕の力が抜けていく。そして、よろめいて後ずさった。 「そ、そんな………、うそでしょ………?」 「本当だ……。私の両親はグレンの出身だ。でも妖人狩りが起きてエルラントに逃げた。そして、エルラントでグレンの侵攻を受けた…………」 「う、うそだ、信じない!」 「私がグレン語を喋っているのがその証拠だ……」  マリウスは崩れ落ちて床に両手をついた。

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