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第5話
「詩雨ちゃんが撮った写真集も全部持ってる。『SHIU 』の名前を出してなかった時代のも、全部。あ、キミのもあるよ、ハルくん」
突然俺に振ってきて、
「それはありがとうございます」
通常の無愛想よりも更に無愛想に礼を言う。たぶん表情だけ見ると、とても礼を言っているようには見えないだろう。
「そんな丁寧な言葉じゃなくていいよ。僕のほうが若いんだし」
何かその『若い』に引っ掛かりを感じる。
「わか? いや、そんなに変わんねぇだろ」
「え? なに?」
心の中で言ったつもりが、外に零れてしまっていたらしい。
「なんでも。――天下のハリウッド・スター様にタメ口は使えませんよ」
と言いつつ、もう全然敬語とも言えない言葉を使う。
「そう? 別に構わないのに。ハルくんだって、ファッション界ではかなり名が通っているんじゃない? 今だってこうして映画にも出演してるんだし」
爽やかにそう言うが、何処か慇懃無礼に感じる。
(俺にだけか?)
「どうも」
取り敢えず礼を言ったが、
「ねぇねぇ、詩雨ちゃん」
俺のことなどもう見てもいなかった。
詩雨さんの顔を覗き込むようにして話しかけている。しかも、詩雨さんの両手を握って上下に振り振りしている。
「覚えてる?」
「何?」
「僕が大きくなったら、詩雨ちゃんをお嫁さんにするって言ったこと」
「ええーっっ」
思わず叫んでしまう。
(お、お嫁さんっ!?)
詩雨さんは俺のほうをちらっと見たが、カイトは詩雨さんを見つめたままだ。
「え? そうだっけ?」
「そうだよぉ」
「でも、オレ男だし。お嫁さんはムリだろー」
「そうだね」
まったく本気にされていないのにも関わらず、にこにこと詩雨さんの手を握っている。
「お、おい」
俺は堪り兼ねてカイトの肩を掴もうとしたところを、
「ハル?」
詩雨さんに名前を呼ばれ、ぴたっと止まる。
「カマオ――じゃねぇ、鎌田監督呼んでるよ。撮影始まるんじゃね?」
俺の後ろを指差す。
「じゃ……行きます」
「うん。頑張れ」
危険人物 をそのままにしておきたくはないが仕方がない。後ろ髪引かれながらもその場を離れた。
* *
あのハリウッド・スター様演ずる主役の、その相手役の女性。更にそのまた婚約者が俺の役だ。しかも、前半で戦死する。
その女性は王族で、カイトはその従者。やがて二人は身分違いの恋に落ちる。if世界ラブロマンスといった感じ。それに魔物や魔法要素もある。
俺は良く知らないが、流行りの設定らしい。
出演時間は短い。だからといって、あっという間に撮影が終わるというわけでもない。今日一日ぎゅうぎゅうに詰め込んでの撮影をし、俺のロケ分での撮影は終了した。
東京で仕事が待っている俺は、明日の朝イチでここを立たなければならなかった。ロケ自体は、一週間程の日程が組まれており、詩雨さんもその期間はロケと行動を共にする。
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