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第6話
今朝までなんの不安もなかった。
ただのハリウッド・スターだと思っていたあいつが、詩雨さんの親戚で、詩雨さんのことを狙っていると知るまでは。
長い廊下にぽつんぽつんと灯りがともる。
何処か気味の悪さも感じさせるが、今の俺には関係ない。とにかく、今日詩雨さんと二人きりで話がしたい。
いや、話なんてしなくたっていいんだ。
二人でいられるなら。
(くそっ、なんで、こんなに俺の部屋と詩雨さんの部屋は離れてるんだ)
スタッフが決めた配置。もちろん、そのスタッフには何の悪気もない。
それに。本当はたいした距離ではない。同じ階の端と端。確かに広い館ではあるが、いうほど遠くもない。ただ、それ程俺が焦っているだけだ。
やっと、一番端の部屋に辿り着く。
トントンと扉をノックすると、
「どうぞ」
と、中から声がした。三十半ばの男にしては、トーン高めのクリアな声。
俺は待ってましたとばかりに勢い良く扉を開けた。
「詩雨さん!」
「ハル、どした?」
部屋の中は俺の部屋と然程変わりない。
ソファーとテーブルのセット。クローゼット。それから、ベッド。
誰かと話をするなら、まず、ソファーだろ。
それなのに。
何故二人はベッドに並んで腰かけてるんだ?
「あれ? ハルくん。こんな時間にどうしたの?」
夜なのに、青空よりも爽やかな笑顔。
俺は無言で二人の座っているベッドに近づいていく。
「おまえ……いや、カイトこそなんでここに」
口汚くなりそうになるのを押し留 める。
「僕らには今までに会えなかった分の積もり積もった話があるんだ」
爽やかだけど何処か挑戦的な目。そう見えるのは俺だけか。
「無用心じゃないですか、詩雨さん。こんな時間に男を部屋に入れて。しかもベッドでなんて」
「え? ハル? オレ、男だよ。それって女の子に言う言葉じゃない?」
さも可笑しそうに笑う。
(ああ……)
俺は頭を抱えたくなった。
そうだ。詩雨さんは自分の魅力をわかっていない。俺以外の男にもそういう目で見られているってことを。
「そうそう。それに僕は親戚だからね」
(親戚だって、危ねぇもんは、危ねぇんだよ。特におまえは!)
そう言いたいのをぐっと堪 えた。取り敢えずヤツの言葉はスルーすることにした。
「俺、明日朝イチで東京戻るから。それで話がしたいと思って」
「あ、そうか。それじゃあ、一緒に話してく?」
悪気なし。しかも、可愛く微笑みかけられる。
(かわ……。でも、それちょっと違う、詩雨さん)
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