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第7話
「詩雨ちゃんとハルくんて仲良いんだね」
「え? ああ。仕事でいろいろ関わりあるからね」
詩雨さんは俺たちが同居していることは言ってくれない。親しい間柄の人間にはもう周知のことなのだが。
「もういいです。俺帰ります」
「ハル?」
「詩雨さん、とにかく用心に越したことないから」
やっぱり心配で彼の両肩を押さえて念押しした。
* *
大手服飾企業『タチバナ』のブランドの一つ『Citrus 』の本社。その六階で、秋冬コレクションの仮縫い作業が行われていた。
「羽衣 さん。俺、これが最後っすよね」
俺の足許に屈んでいる『Citrus』のメインデザイナー・羽衣陽向 に向かって言った。
只今スラックスを確認中。
「今日はずいぶんそわそわしてるね」
(バレバレだ。俺、そんなにわかり易くなったのか?)
過去には表情筋死んでるとさえ言われたこともある。この無表情のせいで何度喧嘩を吹っかけられたことだろうか。
「あ、わかった! 今日詩雨さん、ロケから帰って来るんでしょ」
と隣で別のスタッフに仮縫いをして貰っているモデルの『RINA 』がテンション高めに訊いてくる。
「あ、なるほど。通りで。キミは詩雨さん絡みの時だけわかり易く態度に出るよね」
「え、そうですか?」
とぼけてみせたが、たぶんそうなんだろう。
俺にとって詩雨さんだけが特別だ。他に俺の心を揺さぶるものはなく、自然態度にも出てくるのだろう。
そうは言っても、普段から親しい人間以外には俺の変化に気づきもしないだろうが。
「今回の映画、あのカイト・ウェーバーが主演なんでしょ。彼かっこいーよね。爽やかだし」
「……」
聞きたくもない名前だ。
「あれ? どした?」
無言。むっとした顔をしている自覚はある。
「まさか、詩雨さんと何か――とか、心配してるわけじゃないよね?」
「してない」
それは自分の為にも断固否定したい。
「図星かー」
何故かリナと羽衣さんハモる。
「いくらなんでも、それはないんじゃない? もちろん、詩雨さんは素敵な人たけどぉ」
詩雨さんが好きで俺と一悶着あったリナがそれを言うか。
(それはあるんだよ)
しかし、それはあくまで俺の感なので言うことはできない。
「よし。OKだよ」
OKが出た瞬間俺は部屋を飛び出した。
「お疲れ様でしたー」
の言葉を残して。
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