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第10話

(ああ、もう。何可愛いことしてくれちゃってんの)  俺はさっきまでの苛立ちを忘れ、その腕の中で反転して抱きしめ返した。  ぎゅっと力を込めて。 「ハ、ハルっ。起きてたのか」  二人の時は『遙人』呼びだが、吃驚したり気持ちが昂ったりすると『ハル』に逆戻りする。  驚いている詩雨さんの顔を覗き込み、額をこつんと合わせた。 「……眠れなかった。カイトに嫉妬して」 「嫉妬? まさか。親戚だよ」 「――でもあいつ。詩雨さんと結婚の約束したって」  自分でも情けないことを言っているとは思う。  目の前の綺麗な顔が可笑しそうに笑う。 「あんなの子どもの時のことじゃないか。|海《かい》だって本気じゃないよ」 (それが……本気なんだよなぁ、あいつ)  俺にはそれがわかる。でも詩雨さんには言いたくない。詩雨さんの心の何かが変わってしまうのが嫌だから。 「それにこんなオジサン。海だって、若い女のコのほうがいいだろ」 「詩雨さんはオジサンなんかじゃない。……綺麗だ……とても」 「遙人……」  後ろ頭に手を回して髪を撫でる。何の取っかかりもなく、するっと梳けた。もう既に風呂には入っていたのだろう。さすがに寝る前にはリボンもつけない。  いつでも俺の与えたもので詩雨さん自身を縛っておきたいが仕方がない。  それに。何もない綺麗な髪を撫でるのも好きだ。  髪を撫でながら徐に顔を傾け、その艶っぽい唇を自分のそれで塞いだ。充分にその柔らかさを堪能してから、舌先で割れ目を突つく。そこはうっすらと開いて、俺を迎え入れた。舌先で詩雨さんの舌を絡めとると、あっという間に激しくなる。  お互いを抱きしめる腕に力が籠る。上掛けの中では足も絡め合って、二人の身体は軽い反応を示していた。  俺は唇を離し、詩雨さんの弱い部分を攻めた。首筋を舌で舐めあげる。 「ん……」  小さな声が漏れると俺はもう我慢できなくなる。  そのまま耳まで舌を這わせ、耳朶を|食《は》み、舌を耳の中に入れる。 「あ……ん」  更に吐息が甘くなる。 「ね……詩雨さん……いい? このまま」  言葉と共に熱い息を吹き込んだ。 「遙人……」  艶を帯びた声で名を呼ばれ――。 「だめだっ」  と拒否られた。 「海がいるだろ」 「大丈夫。静かにやる」 「静かになんかできると思うか?!」 「なんとか?」  そう言ってみたものの、俺はともかく詩雨さんは怪しい。押さえ切れなくなって零れる声が頭の中で響いてきた。 「カイトだってもう寝るだろ」  そんな問答をしているうちに俺も冷静になってきて、甘い雰囲気も薄れる。 「そんなのわかんないだろっ! 傍に誰かいるのなんて、ぜったいムリ!」 「りょーかい」    ふっと小さく息を吐く。それから、ちゅっと音を立てて唇にキスをした。  

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