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第22話
舞台挨拶、記者会見も滞りなく進み、関係者だけの内輪なお疲れ様パーティーが、小ホールで行われる。
「ハルくーん。かっこよかったよ。すぐ戦死しちゃったけど」
大ホールから移動している間に何人かに声をかけられて、俺は少し焦っていた。そんな俺の行く手を更に遮ったのは、リナ。ちょうど小ホールの入口で。
「リナ、なんで」
リナはもちろん関係者ではない。
「なんででしょー。夏生さんに招待されたんだ」
「そうなんだ? あ、俺ちょっと急いで」
「軍服姿決まってるよね」
「ありがと」
並んで足早に歩きながら答えるもおざなり感半端ない。
ホール内を見渡す。
「──あいつっ」
「え? なに?」
つい口から零れてしまった言葉をリナが拾ったが、答える余裕もない。
奥の壁のほうで、詩雨さんとカイトが一緒にいるのが目に入った。
(しまった。出遅れた)
「リナ、ごめんっ」
俺は駆けだし、人の波を掻い潜って二人の元へと向かう。
「詩雨ちゃん――この間の答え、聞かせて」
あと数歩というところでカイトの言葉が聞こえた。そこまでは二人の周りにしか聞こえないくらい。
「僕とアメリカに行ってくれる? 一緒に暮らそう!」
そこはホール全体に響くような、殊更通る声で言った。
周知の事実にでもしようと言うのか。相手が女であれば、プロポーズの言葉とも取れる。いや、男であってもそう捉える人間もいる筈だ。少なくとも俺にはそう聞こえた。
「――僕の――お嫁さんになって」
(言いやがったよ、はっきり)
もう『そう捉える人間もいる』どころの騒ぎではなく、誰が聞いても間違いようのないプロポーズだ。
「海、何言ってるんだ、こんなところで」
笑っている詩雨さんは、果たして冗談だと思っているのか、それとも――。
俺は二人の元へはゆけず、立ち止まった。
(もし。詩雨さんが。カイトのプロポーズに応えてしまったら)
怖くて動けなくなってしまった。
この間のことで愛想を尽かされたということも考えられなくはない。
「ちょっと、待った!」
突然、カイトの声にも負けない声が響く。
その声は、けして俺ではない。
俺よりも少しトーンが高い。
詩雨さんとカイトの間に割り入ったのは――夏生だった。
(え……?)
カイトに冷たい一瞥をくれ、
「昨日今日現れたような人間に詩雨を掻っ攫らわれたくなんかないね」
そう冷たく言い放つ。いつも温和な夏生とは別人のようだ。
「僕はね、詩雨とは小学校からのつき合いなんだ。苦しい恋をしている彼をずっと見守ってきた。詩雨が幸せになればそれでいいって思ってた。だから、詩雨を不幸にするなら、会社の大事なモデルで、弟のように思っているハルでも、僕は許さない」
ちらっと俺を振り返る。その視線にぐさっと刺されたような気がした。
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