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第23話
「だけど――ハル以外に、詩雨を連れ去って行く奴がいるのは、もっと許せない。それなら、僕が」
詩雨さんと真正面から向き合う。
「詩雨のことは僕が幸せにする」
「な、なつき?」
当の詩雨さんは、そんな真剣な目差しを受けて困惑している。
(くそっ。やっぱ、ヤな予感は外れてなかった)
俺が嫉妬するくらい、俺よりも親密な関係に感じていた時期があった。考えられないことではなかったのに。
「夏生!」
夏生を止めようとした。
しかし。新たな伏兵が。
「あら~。なら、私も名乗りあげちゃおうかしら。この間は、告白邪魔されちゃったけどっ」
リナだ。
そして、彼女の言うところの告白を邪魔をしたのは、俺だ。
(まさか、この為に、ここに呼ばれたんじゃあ……)
「詩雨さんをお嫁さんに……はできないけど。私が詩雨さんのお嫁さんになってあげる」
リナは詩雨さんの傍らに立ち、ぴとっと肩に頭を傾ける。
それだけじゃなかった。
この小ホールにいる関係者の中からもざわっと動く人間が。男女合わせて十人程が詩雨さん目がけて歩いてくる。
「え~なにこれ~。ドッキリ? ドッキリだよね。オレがこんなにモテる筈ないし」
困惑も通り越して、からからと笑い始める。
(自己評価低いのも大概にしろっ)
しかし、詩雨さんの言葉には同意する。
(これって、夏生の仕込みなのか? それとも……。仕込みだったとしても、夏生だけは本音だろう。
負けるかっ。
詩雨さんのことを一番愛してるのは、俺だ!!)
「どけっどけっどけーーっっ」
恥も外聞もなく、いや、元々そんなものは持ち合わせてもいないが。とにかく、社会的地位を失ってもいいくらいの勢いで周りを蹴散らし、カイトはもちろん夏生もリナも退けて詩雨さんの目の前を陣取る。
「……遙人」
二か月振りに見る詩雨さんの顔だ。何処にも傷がない、いつもの綺麗な顔にとりあえずほっとする。
「詩雨さん」
俺には、ひと月前に夏生に対して嫌な予感を抱 いてから、決意したことがあった。
それにはこの軍服は必要不可欠だったし、大衆の面前で行うことにも意義があった。
俺は一呼吸してから、徐に両手に嵌めていた白い手袋を一枚ずつ歯で軽く食 んで外していく。詩雨さんが一枚外すごとにどきどきしているのがわかる。怒っていても、これは覿面らしい。
両手を素の状態にした後、俺は上着のポケットからそれを取り出した。
その場で片膝をつき、純白の小さな箱を恭しく詩雨さんに掲げる。
「ハル……?」
たぶん、俺のそんな姿にときめいたんだろう。きらきらした瞳で俺を見ている。
俺自身ではなく、そういうキャラクターとしてかも知れない。それでもいい。俺に目を向けてさえくれれば。
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