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第24話

 俺は、ぱかっと箱を(ひら)いた。 「詩雨さん、約束する。もう二度と詩雨さんを傷つけたりしない。詩雨さんを幸せにすると誓う。だから――俺と結婚してください」 「何言ってるんだっ」  一瞬度胆を抜かれたように硬直していたカイトが、俺たちの間を割ろうとした。  が。  それよりも早く詩雨さんが動いた。 「ハルっ」  やや屈み加減になり、両手で箱を掲げる俺の手を箱ごと包み込んだ。  箱の中には――ライトに照らされて輝く、プラチナのリングが入っている。詩雨さんだったらダイヤをあしらったものでも似合いそうだが、シンプルに何もついていないものを選んだ。 「ハル……嵌めてくれよ」  彼は左の手を差し出した。  俺は跪いたまま手を取り、白く繊細な指――もちろん、薬指だ――に指輪を嵌めた。 「オレを幸せにしろよな」 「もちろん。詩雨さん……ありがとう……」    今まで俺たちの関係は周りになるべく知られないようにしていた。それは主に俺の為なんだろう。このあり得ない状況の中で、そのことが頭から飛んでしまったのかも知れない。  このまま飛んでてくれよと思いながら、立ち上がって詩雨さんを抱きしめる。顔を覗き込むと、瞳を潤ませていた。 (いや、これ、なんに感動して潤ませてるのか、わかりゃしないな。ま、いいけど)  調子に乗った俺は、その潤んだ瞳に軽くキスをした。 「おめでとー!!」  突如としてさっきの試写会と同じくらいの拍手と声援が沸き起こる。  今の今までプロポーズしていた夏生が一番喜んでいる。 (やっぱり仕込みかっ) 「夏生」 「もう、詩雨を泣かせるなよー。今度泣かせたらほんとに掻っ攫うから」 (や、本音だ。目が笑ってない) 「絶対泣かせない」  俺は夏生の言葉を心に刻んだ。 「あーあ。やっぱり駄目だったか」  めちゃくちゃ残念そうな、それでいてもう吹っ切ったような爽やかな声がした。 「海、ごめんな」  俺に肩を抱かれたまま、真剣な顔で謝る。 「ま、気づいていたけどね」 「えっ」  詩雨さんは驚いているが、俺はカイトが俺たちの関係に気づいているだろうと感じていた。 「え、だって。どういう関係なのかはっきり言わないし。二人の部屋にはダブルベッドしかないし。どう見ても――って感じでしょ。それに、どうせもしてたんで」  言いかけたところで、バチンッと大きな音がした。顔を真っ赤にした詩雨さんによって、口が塞がれた瞬間だった。  ここでの出来事は、すべて門外不出である――。

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