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第2章:人間世界 第2話①
重い瞼を持ち上げた時、セイルは布団の中だった。緩慢な動作で瞬きを繰り返す。そして意識を失う前の出来事を思い出し、ハッと目を見開いた。
「うっ……」
腰の奥にある鈍痛に顔を顰める。全身の倦怠感が昨夜の行為の無謀さを物語っていた。節々も痛いし、ずっと開かれ続けた股関節の違和感も酷い。後孔に至っては未だに何か入れられているような気がしてならない。
ずっと寝ている訳にもいかない。早く結界を張れる術者を探し出さねばいつまで経っても里へ戻れないのだから。
上半身を起こそうとしたが、上手く起き上がれない。震える腕をマットレスに突き、起き上がろうとしても力が抜けてうつ伏せに突っ伏す羽目となった。
じんわりと涙が滲む。酷い暴力を受けた。ただの暴力ではない。尊厳を踏みにじる、とんでもない蛮行だ。
しかし、今ここで自分が頑張らなければ、里にいる大切な人たちが野蛮な他種族から生命の危機を脅かされるような酷い目に遭う可能性は捨てきれない。こんな所でウジウジと悩んでいる場合ではないのだ。
「あれー? 起きたんすかー?」
寝室の扉が開く音がして、甲高い少年の声が聞こえてきた。咄嗟に振り向けば、金色の短髪をした少年が寝室へと入って来るところだった。遠慮なくズカズカと近づいて来る少年に怯えて布団を抱き締める。
「どもー! 俺、真柴慎吾いいまーす! 今は九条会の下っ端だけど、いつかは組長の片腕……いや、右腕に! なる男なんで! よっろしくー!!」
歯を見せてニカリと笑う慎吾は親指を立てる。そして、握手を求めるように手を伸ばしてきた。
「えっと……セイル・ミリュエル……です……」
おずおずと布団の中から右手を出し、慎吾の手を握る。慎吾は尚も良い笑顔のままブンブンと手を握ると、パッと離してくれた。
「いや~、昨夜、若頭から組長のお世話係を他の奴に譲れって言われた時は俺、何か粗相でもしたかと思って焦ったけど、ま、次の恋人できたってことなら、仕方ないわなー!」
ハハハと笑いながら慎吾は寝室のカーテンを開く。随分と寝ていたようで、太陽の日差しが燦々と眩しい。思わず掌で目を覆ってしまう。
「あっ、まだ眠かったっすか?」
「ううん、ちょっと眩しかっただけ。ありがとう、気遣ってくれて」
段々と眩しさにも慣れてくる。ニッコリと笑んで礼を言えば、慎吾は頬を赤く染める。
「えっと、若頭からセイルさんに一通りの家事の方法を教えてやってから車出せって言われてるんすけど、とりあえずビャーッと説明とかしちゃっても良いっすか?」
「うん。ありがとう、今、起きるね」
ギシリと音をさせて布団から上半身を起こす。先程は起き上がれなかったが、誰かを待たせていると思うといつまでも寝こけてなどいられないという気持ちが強まり、気力で何とか起こすことに成功した。
「んっ……」
ベッドから降りようと腰を上げたが、ドロリと後孔から出てきた粘液に顔を顰める。腿を伝う感触。昨夜、体内で出された精液だと気付き、顔面を蒼白にさせた。
「だ、大丈夫っすか!?」
慎吾が体を支えてくれる。その腕に掴まりながら何とか立ち上がった。
「えっとぉ……家事……よりも、まず、風呂……っすかね?」
体中に残る情事の跡を見てか、慎吾が更に顔面を真っ赤にさせて明後日の方向を向いてくれるが、男に抱かれた体を見られたことへのショックを隠せなかった。
よろける体を慎吾に支えてもらい、浴室へと向かう。シャワーの湯を浴びながらその場にくず折れた。
相変わらず後孔から零れる粘液の不快感に苛まれる。
「うっ……うぅ……」
シャワーの水音が声を消してくれるのを良いことに、溢れる涙を止められなかった。
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