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第2章:人間世界 第4話②
この日を境に、「日向神社改造大作戦」が実施されることとなった。翌日には梨々花が新しいお守りのデザインラフを数パターン持ってきてくれたが、どれも今時の女子高生らしく可愛らしいものばかりで選定には苦労した。
結局、透明なアクリル袋の中に小さなピンク色のハートとラメが浮かんだアクリルお守りが採用されることとなった。梨々花曰く、中が透けて見えることで「恋の気持ちがまっすぐに届いてほしい」という意味が込められているらしい。その願いが何とも可愛らしく、全員一致で採用となった。キーホルダータイプで制服やスマホにもつけやすいというのも理由の一つだ。
デザインを発注して納品を待つ内に、興奮状態の梨々花が神社へとやって来た。どうやら、彼氏ができたらしい。ずっと片思い中だったにも関わらず、相手の方から告白してくれたのだという。
「だーかーらー言っただろ~? うちの大願成就のお守りは効果が違うんだって!」
胸を張る悠真は何とも誇らしげだった。
神社の参拝客もあれから非常に好調だ。梨々花の教えを参考にしながら神社の新しいアカウントを作成して、できる限り更新を続けている。バズっても続かなければ一過性のもので終わってしまう。そうならないためにも、こまめな更新が必要だと言われ、スマホやタブレットの操作方法を覚えた。境内は自然も多く、様々な木や花が植えられている。それらの植物を紹介したり、梨々花たちの指導を受けながら境内を紹介できるような動画を撮ってみたりして、慣れないながらも奮闘している。
セイルとしては、美しい花々を是非とも見てもらいたいと思っているが、なかなか花単体の投稿は伸び悩んだ。そのため、出来る限り自撮りをするようにしている。そうすることによって、拡散率も格段に上がるのだ。
あまり目立つのは嬉しくないが、神社のためであれば仕方がない。参拝客の増加によって、賽銭の額も増えた。
悠真からの熱い要望を受け、神楽舞も練習した。舞自体は苦手ではないため、そこまで習得は苦にならなかった。SNSでの「踊ってみた」投稿も続けた方が良いと助言され、なるべくあげるようにしている。それらも含めて生で舞を見てみたいという人が増え、祈祷の予約も上々だ。
そして、お守りの購入者へのサービスも人気の一つとなった。
「貴方の願いが叶いますよう、お祈りしております」
購入者の手にお守りを握ってもらい、その上から両手で包み込む。目を閉じてお祈りをしてから手を離すと、大抵の人は頬を赤らめながら陶酔したように見つめ、次の瞬間には感謝を述べながら帰って行く。
梨々花たちのアドバイスを基に、お守りを買ってくれる人たちには手を握りながら願いが叶うように呟くサービスをするようになった。梨々花たち曰く「握手大作戦」らしい。この効果かどうかは定かではないが、お守りなどの授与品の売り上げは相当アップしている。何度もリピーターのようにやって来てはその都度、授与所で購入する参拝客もいる。一部の歌手が歌を売る時の作戦の一つらしいが、そんなに手間も労力もかけずに売れるのであれば神社としてはありがたい。
セイルが日向神社に来てから悠真の目論見通り経営は徐々に上向き、上々だった。これならば社務所の雨漏りも近い内に直せそうだ。空梅雨のため、そこまで大雨は心配していないようだったが、ここ最近はゲリラ豪雨も多く、安心できないと話していたから、早く直すに越したことはない。
梨々花たちの助言を参考にしたお守りも好調だったことから、恋みくじなども取り入れることになった。こちらのデザインも二人がしてくれるということで、悠真はおみくじに書く内容の精査に最近はもっぱら頭を悩ませているが、それはそれでとても楽しそうに見えた。
行動することでの悩みは嫌いじゃない。何もしないで悩むよりも解決に向かっていると実感できる。
神社への参拝客が増えたことで、周囲の商店街を利用する客も増加した。これには商店街の店主らも大層喜んでくれていた。仕事帰り、買い物のために寄ると口々に感謝の言葉を告げられ、お土産変わりにと大量の食材をくれる。毎回申し訳ないと口にするが、ぜひとも持って行ってくれと言われれば断り切れず、購入金額の何倍もの食材を貰って帰ることもザラだった。
スマホやタブレットの使い方を覚えたことで、インターネットも使えるようになり、料理のレパートリーも一気に増えた。文字は相変わらず複雑でよく分からないものも多いが、動画や写真も多く載せられているため、理解するのに苦労はしなかった。
しかし、食べてくれる人がいない。鷹臣は基本的に家で食事をしないのだ。朝もセイルが目覚めるよりも早く出かけてしまうし、帰宅も遅く、食事は済ませて帰って来る。せっかく覚えたレパートリーを披露することもなく、貰った食材を減らすために神社へと持って行ってはおすそ分けと称して悠真や梨々花たちにあげることがほとんどだった。そのほとんどは好評で、いつも喜んでくれる姿を見るのは嬉しいが、食べさせたい人に食べてもらえないというのは切なくもある。
鷹臣との繋がりは、家の掃除と夜の営みだけだった。
「お帰りなさい」
日付を跨ぐ間際になって、鷹臣が帰って来る。毎日大体同じような時間だから、それすらも慣れた。鷹臣の帰宅までに淫猥な服へと着替えておく。今日は黒いシースルーのベビードールにほとんど紐のような面積しかない下着を身に着けてのお出迎えだ。かろうじて性器と睾丸が隠れる程度の布地はあるが、少しでもズレてしまえば大事な部分がすぐに見えてしまいそうなくらいには心もとない。
無言でリビングのソファへと座り込んだ鷹臣へと水を出し、相手の股座へと座り込む。ベルトを外し、寛げた下腹から陰茎を取り出した。帰宅早々ということもあり、未だに反応を示していない性器はくったりとしているが、太さも長さも常人を逸していると思う。しかも真珠によって太さが増し、勃起していないにも関わらず見た目の凶悪さはひとしおだ。
何度見ても鷹臣の陰茎を前にすると生唾を飲み込む。これから、この男に抱かれるという事実を突きつけられている。初めての夜以来、何度も褥を共にした。しかし、何度抱かれても慣れるということがない。男根で貫かれる時には息が詰まるし、最後には訳も分からないくらいにまで絶頂を繰り返す。
そして、朝には誰もいない寝床で目を覚ますのだから。
両手で性器を丁寧に支え、先端へとキスをする。初めての時からずっと続けているルーティーンワークの一環のようなものだ。
これから、この性器へと奉仕する。自分への決意のようなものだ。全身全霊を込めて彼に尽くす。
ここにいさせてもらうために。
この生活を守るために。
里を救うための手立てを探すためには、まだここでやらねばならないことがあるから。
亀頭を口の中へと含む。大きいが、毎日やっていれば嫌でもできるようになった。性器の先端から三分の一程度を飲み込み、舌を這わせる。真珠で凹凸のできている場所も段々と覚えてきた。陰茎の側面を丁寧に舌で舐めしゃぶる。舌の表面で絡みつくように添わせた後、先端を尖らせて丹念にカリ首のくびれや鈴口などに挿し込んでいく。
口の中に溢れて来る先走り。ジュルジュルと吸いながら嚥下する。塩味のある粘液が唾液と混ざりながら喉を通る感触は未だに嫌悪してばかりだ。
それでも、ここで口淫を雑にしてはならない。「手を抜いた」と難癖をつけられ、この後の行為へと影響してしまう。ここでひと頑張りすることが大切だと学んだから。
それに、先走りの方が味としてはまだマシだった。この後に訪れるであろう苦みの方が苦手である。
しかし、そんなことは絶対に言えない。だから、苦手な薬草を飲み込む時のことを思い出しながら嚥下するようにしている。味は全く違うが、嫌な味という共通点だけは同じだ。
頬を窄め、性器へと吸い付く。それまで以上に舌で性器を舐めながら注挿を始めた。全部入れるにはまだ少し抵抗がある。だから、性器の半分よりも少し深くまで飲み込む。それでも喉の壁に先端が付く。
最初の頃はその度に嗚咽を吐いてばかりいた。それも少しずつなくなり、今では触れるだけなら咳き込むこともない。
顔の角度を何度も変えながら様々な刺激を与えられるようにと注挿させる。経験を重ねたことで、始めの頃よりは速くピストンできるようになった気がする。ボコボコとした真珠の凹凸は咥えづらいが、この後の行為のことを考えると体が少し火照ってしまう。窄めた唇を通過する真珠の刺激すら体を疼かせる。
徐々に性器が大きくなる。咥えづらさが増し、少しばかり眉根に皺を寄せた。
しかし、ここであまりにも嫌そうな顔をしてはならない。目の前の彼は行為に対して嫌々行っているというスタンスを出すのを嫌う。彼の機嫌を損ねてはならない。こんなことをしているのも、ソープに沈められないためなのだ。
この口淫も、早く慣れろという鷹臣からの指示で行っている。ソープでは「即尺」といって、客の性器を洗う前に口で清める行為をするのだという。不特定多数の初対面の相手でもそんなことをしなければならないのかと聞いた時には愕然とした。
さすがに誰彼構わず体を許す気はない。だから、鷹臣に見捨てられたら困る。そのためにこの行為だって自分から望んでいるというスタンスで行っている。
ジュブジュブと口内の水音が動きの激しさと連動するように増す。できる限り唾液を絡めることで相手に快楽を与えられることを知ってからは積極的に唾液を纏わせるようにした。粘液が増加することによって動きもスムーズになる。その分、しゃぶりやすくなり、奉仕しやすい。
「んっ」
鷹臣がセイルの頭を掴んで来た。ここからはより深く性器を咥えさせられる。息苦しさが増し、セイルにとっての正念場となる。もうすぐ射精が近いということだ。
喉の奥までみっちりと性器が詰まる。何度やっても苦しくて生理的な涙が零れてしまう。それでも、ここまで頑張って口淫してきたのだから、あと少しだと自分を鼓舞する。
「くっ……」
ひと際奥まで突き込まれると、低い声と共に鷹臣が吐精した。白濁が食道へと流れ落ちていく。
どうやら、今日は喉奥で射精したかったようだ。鷹臣が即尺をさせた時には三つのパターンがあげられる。今日のように奥で飲み込まされる時と、顔にかけられる時、そして、亀頭だけを含まされる形で口内に射精される時。
セイルは三つ目のパターンが最も嫌だった。吐精された精液はすぐに飲み込むことを許されず、口内でしばらくの間貯めさせられる。そして、嚥下することを許されてから初めて飲み込めるのだ。
他人の精液を口の中にずっと留めておくのは想像していた以上に嫌なものだった。舌の上の精液の味を否が応でも味わう羽目になる。苦味のある精液は吐き出したくて堪らない。しかし、そういう時に限って鷹臣はなかなか許可してくれないのだ。
射精された全ての精液を飲み込んだ後、再び性器へと舌を這わせる。お掃除フェラも鷹臣に仕込まれた一つだ。口淫で射精させた後はしっかりと中の精液を吸い上げ、精液が残っていないよう綺麗にしなければならない。亀頭を吸い、鈴口から溢れた残滓を舐め取る。再び舌先で感じる苦味に内心では盛大に嫌悪するが、極力顔には出さないように努める。
それも鷹臣からの言いつけの一つだ。体内から出したものを嫌がるような素振りをするば、客が興覚めする。できる限り淫猥に、相手の精を悦んでいるように見せねばならない。
いかなる時に鷹臣がセイルに飽きるか分からない。その時が来れば、セイルの身の置き所は男に金で買われる場所だ。いつ何時その時が来ても良いようにと、鷹臣はセイルの体を頻繁に抱く。そして、手練手管をその身に叩き込まれるのだ。
物覚えの悪くないセイルは鷹臣の指導を従順に受け入れた。もちろん、心の内では嫌だと思うことばかりであったが、鷹臣の言うことは全てが今のセイルにとって〝絶対〟であった。
残滓が出なくなった頃、やっと性器から口を離すことを許される。口から出した赤黒い巨大な性器は唾液で濡れそぼっていた。濡れていることで照明の光を受けてより一層淫猥に見える。
そして、ここからがある意味本番となる。憂鬱な気持ちを心の奥底に押し込め、立ち上がった。紐パンの紐に手をかける。引っ張れば僅かな布地がはらりと床へ落ちた。面積は小さいものの、それでも陰部を隠してくれていたものがなくなり、異性を相手に使ったことのない桃色の性器が姿を現す。羞恥を煽るためだけに何度か鷹臣の手で吐精させられたことはあるが、それを除いては持ち主であるセイル以外触れたことのない大切な場所だ。
ソファへと膝をつき、鷹臣の肩へと手をかける。お掃除フェラで再び力を取り戻した鷹臣の性器の根本を握り、亀頭へと目掛けて後孔の先を合わせた。
「んうっ……」
挿入り込んでくる剛直の先端。熱い切っ先の感触に眉間の皺が寄ってしまう。
何度受け入れても巨大すぎる剛直を飲み込む時には苦しさが先に立ってしまう。異物によって拡げられる直腸。特に、鷹臣の性器は滑らかな直線状ではなく、真珠によってところどころに凹凸がある。その真珠の出っ張りがゴリゴリと直腸の襞を擦っていく。
「あっ、ああっ……」
特に前立腺付近を通る時の刺激は堪らない。男でも体内で感じることができると一番初めに教えられた場所。体内にあるしこりを擦られる度、それだけでビクビクと腰が跳ねてしまう。
「お前、本当にココ弱ぇよな」
「んっ、らめ、そ、な……んっ、はあっ!」
それまで何の感情も示していなかった鷹臣の顔に薄っすらと笑みが浮かぶ。腰を持たれ、前立腺付近で鷹臣が僅かに腰を蠢かしてきた。
鷹臣は自分の行動一つで相手をどう翻弄できるか分かっている。エラの張ったカリ首とその近くに埋め込まれた真珠が前立腺を擦り、得も言われぬ快感をセイルへと与えてきた。
「やっ、あんま、やると……で、ちゃう……」
「俺の許可なくイったら仕置きだからな?」
〝仕置き〟という言葉にビクリと体が大きく反応した。鷹臣はよく〝仕置き〟という言葉を使う。そして、それはただの脅しではなく、行動として着実に実行される。先日も同様に言いつけを守れずあっけなく一人だけ吐精してしまった時には性器の根本を縛られ、吐き出すことすら許してもらえなかった。散々泣き喚いて許しを請うても外してもらえず、最後には精液を出さずに何度も絶頂を迎えてしまった。脳内が焼き切れてしまいそうな程の射精を伴わない悦楽に訳が分からず、子供のように泣いてしまったことは忘れられない。いくらまだ成人していないとはいえ、もう百八十三歳にもなっているのだから。
「んっ、んんぅ……」
動きを止めてくれとばかりに眼前の鷹臣に抱きついた。それでも鷹臣は器用に下半身だけを動かし、セイルの中のイイところばかりを責めてくる。
鷹臣に教えられた前立腺での快感というものは何とも厄介だ。腹の奥の繊細な場所を擦られることで、性器とは違う快楽に襲われる。より深く、さざ波のように全身へと広がる刺激は強烈で深い快感を与えてくる。男性器を擦って吐精する局部的な快感と異なり、内側から湧き上がるような快感は長く体を悦楽の海に浸し、それ以外考えられなくなってしまう。
「やあっ、やらぁ……やめ、て……」
鷹臣の肩へと顔を埋めながら嫌々と首を横に振る。気持ち良すぎてツラい。
射精を耐えるというのは思っていた以上に我慢を強いられるものだった。痛みなどはまだ気力でカバーできるが、快感はそう上手くいかない。高めるだけ高められ、忍耐などというものではどうにもできなくさせられる。快感に対しては打つ手がないと言っても過言ではない気がする。
「ひぁっ! ああっ、あっ、おねが……イ、く……イっちゃう! からぁ……」
「ダメだって分かってんだろ? また粗相するまでちんこ弄られてぇか?」
ゾクゾクとしたものが背筋を駆け上がる。この歳になって漏らすことだけは避けたい。しかも、ここはリビングのソファであり、掃除するのは翌日のセイルなのだ。拭き取りながら前夜の行為を思い出して羞恥に苛まれるのはもうこりごりだ。
何度懇願しても鷹臣は止めてくれる素振りが微塵も見えない。こうなったら、自力で何とかするより他に手立てがない。抱き着いていた手を離し、大量の涙を零す己の屹立を握り締めた。
「うっ」
兆している性器を掴むのは痛みすらある。それでも、これ以上放っておけば限界はすぐそこだ。鷹臣が許可を出してくれない今、自分で何とか射精を回避する他ない。
セイルの手の中でも簡単に収まるサイズの屹立が先走りの涙を流して戒めを咎める。手の中の性器がビクビクと跳ねる度、収まれ、我慢だと心の中で言い聞かせる。握り締める手は鈴口から零れた粘液でしとどに濡れていた。生暖かい体液の感触。自分の中の恥ずかしい場所から零れたものだと思う度、顔が紅潮してしまう。
「中だけじゃ足りねぇか?」
耳元で聞こえてきた声にハッとする。鷹臣の顔を見れば、余裕の表情の中に浮かぶ楽しそうな笑み。
ゾッとする。この顔を見るだけで、彼が碌なことを考えていないと分かるから。
「やっ、十分、だからぁ!」
「遠慮すんなよ」
鷹臣の手が性器を握るセイルの手の上へと被せられる。そして、セイルの手と共に性器を擦り始めたのだから堪らない。
「いやぁっ! やめてっ!」
鷹臣のすることには逆らえない。彼が性器を扱くというのなら、それはセイルにとってやらなければならないことだ。
性器を握り、上下に擦る。それだけでも気持ち良いというのに、鷹臣は前立腺を擦り続ける。
鷹臣自身の快楽だけを優先してくれればどんなに楽だろう。射精だけしてあとは放っておいてくれればセイルの中でも割り切れる。
でも、こんな風に気持ち良くさせられてしまえば、これがセイルにとっても快楽を得る行為になってしまう。嫌々させられていることではなくて、自分としても望んでいる行為だと認識させられそうで嫌だった。
「らめ、らめ……れすって……ばぁ……」
涙を零しながらフルフルと首を横に振る。気持ちが良すぎで頭の中が射精のことしか考えられなくなってしまう。
どうしてこんなに悦いのだろう。実際に握っているのは自分の手なのに。鷹臣の大きな手に包まれ、彼の速いペースで手淫をされるだけで鷹臣にされているような気がしてしまう。
他者によってもたらされる悦楽の深さ。頭の中の全てを持って行かれる。
そして、脳内に残るのは快楽だけ。目の前の相手だけが特別だと認識させられる。
こんな風に抱かれてしまえば誰にでもそう思ってしまうのだろうか。そんなのただの淫売だ。鷹臣が相手だからだと信じたい。
「んやぁ、も、ほんろに……で、ますぅ……」
背筋を反らし、腰をくねらせる。本当に限界だった。睾丸の奥では射精を求めて数多くの子種たちが騒いでいる。手の中の性器もビクビクと跳ねてばかりだ。
「イかせて……イかせてくらさいぃ……」
性器を握っていない手で鷹臣の体を抱く。この場において、鷹臣以外に縋れる人がいない。こんな無体を強いているのも鷹臣なのに、それでも彼しかこの責め苦にも思えるまぐわいから助けてくれる人もいない。
「うっ、んっ……はあっ……ああっ!」
それまで前立腺ばかりを責めていた性器が一気に最奥まで貫いてきた。結腸を超え、S状結腸の奥の肉へと埋め込まれる。
その強すぎる刺激でセイルの中のタガが外れてしまった。手淫していたことも相まって絶頂を迎えてしまう。
「あっ……ああっ……」
放った精液は抱きついていた鷹臣のシャツを汚してしまった。ああ、明日、このシャツを洗濯しながら今宵の痴態を思い出す羽目になるだろうと頭の片隅でボンヤリ考える。
しかし、それ以上に吐精の快楽の方が何よりも強すぎた。我慢を強いられていたというのもある。我慢した分だけ快感の強さも大きくなるのだ。
「まだ俺が許可してないのに、またやっちまったなぁ」
耳元で聞こえる低い男の声。吐精の疲労感で呆然としているセイルの意識が戻る。
「あ……ごめんなさ……ごめんなさい……」
「お前、本当は仕置きされてぇんじゃねぇの?」
ブンブンと首を横に振る。そんなはずがない。ツライのも苦しいのも嫌いだ。
それなのに、腹の奥がキュンキュンと期待に疼く。もっと酷く扱われたいと強請っている。
自分の中にある被虐的な悦びを見出してしまったようで嫌だった。しきりに首を振り続ける。
「まあ、良い。仕置きは今後ゆっくりしてやるよ。もちろん、これで終わりなんてねぇよなぁ?」
ニヒルな笑みが浮かんでいる。ゾクリとした悪寒が走るも、同時に胸の奥底に湧くゾクゾクとした好奇心。共に抱くにはおかしい、相反する感情。
里にいる頃には自分がこんな風に思うようなタイプだとは自覚していなかった。そもそも、性的な行為を誰かとしたことがなかったのだから。
「んんぅ……」
まだ射精に至っていない鷹臣の性器を絶頂へと誘うべく、注挿を再開させようとするも、吐精後の敏感な直腸はその動きを過剰に感じ取ってしまう。腰を蠢かそうとしてもギュウと竿を握り込んだ直腸は動かせなかった。
「おい、やる気あんのか? ねぇのか?」
「あり、ます……んぁっ!」
腰を持たれて揺すられたかと思うと、一気に結腸を抜き、最奥まで貫かれた。ビクビクと大きく体が震える。縋れる物がなく、目の前の男に抱きつく腕に力を込めた。
結腸を抜かれること自体はもはや慣れたものだ。毎回されていれば、嫌でも免疫がつく。結腸までで許してもらえることなど一度たりとてないのだから。
しかし、慣れたからといって、それがセイルの体の負担にならないという訳ではない。最奥の更にまた奥を貫かれるというのは、限界を超える行為だと思っている。
他者を受け入れてはならない場所なのに。受け入れるようにはできていない場所だというのに。鷹臣は当然のように挿入り込んで来る。
そして、体の奥深くで味わう極上の快楽を与えてくるのだ。
「ひぁっ! ああぅ、あっ!」
始まった力強いピストンに堪らず背を反らす。セイル自身が動いているのではない。鷹臣が自発的に注挿させているのだ。
まだ自分でピストンしているのであれば加減もできるし、体内のイイ場所に当てないようにして絶頂に導く時間を少しでも多く稼ぐこともできる。
しかし、鷹臣が動く時にはそんな思惑など全てが無に帰してしまう。
それどころか、あえてイイ場所ばかりを狙うように出し入れしているとしか思えない。そうでもなければ、こんなに強すぎる快感を拾ってしまう訳がない。
「ひぁっ! ああっ! ん、ああっ!」
嫌々と首を振る。快感から来る生理的な涙が止まらず、頬を伝う。ひっきりなしに零れる悲鳴染みた嬌声。男にしては高く、こんな淫らな声を出しているのが自分だとは思いたくもない。
口の中に溢れた唾液が唇の端から零れる。きっと、とんでもなくだらしのない顔をしていることだろう。男として恥ずかしい。
しかし、そんな考えすら頭の片隅に追いやられてしまう程、気持ちが良くて堪らなかった。
カリ嵩の亀頭が結腸を通る度、耐えられない程の悦楽に見舞われる。そして、その後すぐに訪れるS状結腸奥の肉に抉り込むように叩きつけられる亀頭。そのダブルの刺激で脳髄が焼かれるような強すぎる快感を与えられた後、すぐに引き抜かれる。
そして、鷹臣の性器に埋め込まれた無数の真珠を伴った直腸への刺激で更に絶頂へと追い込まれる。彼の性器の至る所に凹凸として主張している真珠は普通に性器が通るよりも厄介だ。
以前、今日のように粗相をしてしまった後の仕置きと称して、散々貫かれた後の後孔にバイブを入れられたことがあった。滑らかでほぼ直線に近いバイブは鷹臣の性器よりも細いということもあったが、易々と受け入れることができた。その時、凹凸がないだけでも随分と負担が少ないのだと実感した。
しかし、この凹凸があることで得られる刺激は尋常ではない。そうでなくとも、鷹臣の性器はセイルの性器とは比べ物にならない程太い。そのため、狭い直腸はその剛直を受け入れるだけでも精一杯なのだ。隙間など出来るはずもなく、肉筒の限界まで開かされている。
そして、その肉の襞を真珠がゴリゴリと力強く擦っていくのだ。一粒だけならいざ知らず、いくつもの凹凸によって直腸の奥の奥まで。こんな刺激をもたらされ、我慢できるほど性交に慣れてはいない。
「あっ! ああっ、あっ!」
再び湧き上がる射精欲。気持ちの良すぎる刺激に、耐える術など持っていない。咄嗟に性器を握り込んだ。痛みに顔を顰める。しかし、握っていないとすぐにでも射精してしまいそうなのだから仕方がない。
「……ったく、どんだけ感じやすい体してやがんだよ……。まあ、良い。次は俺がイくまでちゃんと我慢しろよ?」
コクコクと何度も頷いた。二度も同じ失態を繰り返すことは許されない。鷹臣はとても冷酷な人間だ。今度はどんな仕置きをされるか分からない。そうでなくとも、今日一度言いつけを守れず、その分の仕置きがあるのだ。これ以上やらかせば、ここにいさせてもらえなくなるかもしれない。
「あっ、ああっ! うっ、あっ……ひあぁっ……ッ!!」
「くっ」
ピストンが速くなったかと思うと、鷹臣が低く呻いた。一気に奥まで貫かれる。S状結腸の肉に埋め込んだ亀頭の先端から熱い飛沫がかけられた。
快楽に侵された脳にも、それが鷹臣の絶頂だと情報が届いた瞬間、許されたのだとばかりに性器を握っていた手から力を抜く。精巣の奥から湧き上がる精液が精管を駆け抜けた。勢いのない二度目の吐精。それでも、微量の精液が鈴口から飛ぶ。
ビクビクと絶頂で体が震える。イっている時は殊更、中にいる性器を締め付けてしまう。いくつもの凹凸を感じながら、絶頂の余韻に浸る。
鷹臣の指がセイルの顎を掬った。焦点の合わない視線を鷹臣に向けたまま、唇を奪われる。
「んっ……」
舌が口内へと挿入り込んでくる。絡め取られる舌。グチュグチュと音をさせている。
キスをしていると胸が熱くなり、体の奥に再び火が灯ってしまいそうな感覚に陥る。性感帯であるはずがないのに。しかし、ピクリと反応を示してしまう性器を誤魔化せない。男の体は何とも正直なのだから。
「あっ」
唇が離れたと思うと、鷹臣がソファから立ち上がった。未だセイルとは下肢で繋がったまま。腰を持たれているため、落とされる心配はなさそうだが、セイル自身も鷹臣の腰へと脚を絡ませる。両腕も首へと回して落ちないようにくっついた。
「んぁっ!」
鷹臣が歩くだけで中にいる性器が最奥を突いてくる。放ったばかりだというのに、どうしてもうこんなに硬くなっているのだろうか。絶倫の彼とのセックスは長い夜を過ごさせられることが多いが、吐精後の復活の速さもセイルとは段違いだ。
「ああっ! んっ、ああっ!」
歩く度にイイ場所を抉ってくる。その度に軽くイってしまう。ビクビクと痙攣のように震えながら直腸の締め付けを強くする。その肉壁を貫いてズンズンと進む鷹臣に、射精で一度落ち着いていた涙が再び流れ始める。
気持ちが良すぎると何もかも制御がきかなくなる。涙腺も、心も。訳が分からなくなって、ただただ鷹臣に翻弄されるばかりだ。
鷹臣がセイルを抱えたままやって来たのは寝室だった。ダブルサイズのベッドに乗り上げ、ど真ん中に背を下ろされる。
その頃には何度も甘イキした体はゼイゼイと全力疾走をした後のように疲れ果てていた。セイルの薄い腹も、未だシャツを着こんだままの鷹臣の腹筋付近も白濁で濡れてしまっていた。
「この程度で落ちんなよ? こっからが本番なんだからな」
セイルの腰を持ち、ガクガクと揺さぶってくる鷹臣は何とも楽しそうにニィと笑う。
一方、既に睾丸の中に精液なんて残っていないセイルは眉間に皺を寄せ、唇を噛みしめる。
拒否権など持ち合わせていない。鷹臣が望むのであれば、それは全て受け入れなければならないことだ。
セイルの体のことなど何も考えてはくれない。ただ、彼の絶倫すぎる性欲に付き合わされるのみ。
一度硬く目を瞑る。そして、ゆっくりと目を開いた後、精一杯の作り笑いを浮かべた。
「はい、今宵も、鷹臣さんの気の向くままに……」
心を押し殺し、鷹臣へと向けて両腕を伸ばす。
嫌がっている素振りを見せてはならない。これは自分の望むこと。
里のために。
大好きなみんなのために。
我慢するのは慣れている。
それが誰かのためになるのなら、それで良い。
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