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第4章:抗争 第4話①

「……ったく、こんな時期に海なんて入るもんじゃねぇな」 「……ですね」  車内の暖房をつけてはいるが、予想外に凍え切っていた。なかなか体が温まらない。  それに、足元も砂利や海水で濡れて気持ちが悪い。はしゃいで入ってしまったが、失敗したようだ。 「あれ? 日本にも西洋のお城ってあるんですか?」  車窓を眺めていると、煌々と照らされた城が見える。日本の城に関しては結月や悠真が城談義をするためよく話には聞いているが、西洋の城が日本国内にもあるなんていう話は聞いたことがない。 「ああ、ラブホか。行ってみてぇのか?」 「ラブホ? って何ですか?」  聞いたことのない単語に小首を傾げる。ラブホという名前の城なのだろうか。 「行きたきゃ連れてってやっても良いぜ? 確かに、風呂もあるし一石二鳥だな」 「お風呂! つまり、温泉とかスパってやつですか? わぁ、こんな所にあるんですねぇ!」  温泉についても悠真たちから聞いて知っている。お金が溜まって雨漏りや鳥居の修繕などがひと段落ついたら、たまには秘境の温泉宿でゆっくりしたいと悠真が語っていたのを梨々花たちが「爺くさい」と言いながら揶揄っていた。そして、そこから熱い温泉談義が繰り広げられていたのだ。  どちらも行ったことも見たこともなかったセイルにとっては温泉と城の素晴らしさをダブルで聞く機会となり、それほどまでに素晴らしいのであればいつかは行ってみたいと思っていた。  先ほど、鷹臣も共に思い出を作りたいと話していたことだし、そんなに素敵な場所なら調度良いかもしれない。 「お前が行きたいって言ったんだからな。言い出しっぺはちゃんと責任とれよ?」 「?? 何か難しいことでもあるんですか?」 「いや、ねぇがな」  クツクツと小さく笑う鷹臣は何とも楽しそうだ。  少しばかり嫌な予感がしなくもないが、今は悠真や結月たちを信じることにした。

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