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第4章:抗争 第4話③

「ふ~、大分温まりましたね」  パタパタと掌で顔を仰ぐ。海ではしゃいで車に乗った時にはすっかり体が冷え切っていたが、今はもう暑いくらいだ。 「もう泡風呂は良いのか?」 「はい。随分と堪能させていただきました」  泡風呂を満喫して、先に風呂から上がろうと立ち上がった。しかし、鷹臣が背後から抱きついてきたため、浴室からは出られなかった。 「それなら、今度は俺が楽しませてもらっても良いよな」 「え? 鷹臣さんも楽しんでませんでした?」 「てめぇに付き合ってやってただけだろうが」 「ひゃあっ!」  横抱きにされて持ち上げられる。浴槽から出されると、風呂の椅子へと座らせられた。そして鷹臣は浴室の隅に置かれていたマットを床へと広げる。 「それ、何ですか?」 「ソーププレイするのに、こういうマットがなきゃ痛ぇだろ」 「ソーププレイ?」  またしても聞き馴染みのない言葉に遭遇して首を傾げる。しかし、ソープという言葉自体は出会ったばかりの頃に何度も脅し文句のように言われたから覚えてはいる。  最初はソープというのが石鹸を指す外来語だと知ったが、それでは鷹臣があれ程まで言うはずがない。何だろうと思いはしつつも、誰にも聞けずじまいでいた。  鷹臣は浴槽内の湯を桶で掬うと、浴室内に置かれていた大き目のボトルに入っている液体を入れていく。軽くかき混ぜると、随分と粘度の高い液体が風呂桶の中に出来上がっていた。 「何ですか? それ。随分ネバネバして見えますけど」  風呂桶をかき回していた鷹臣の手に触れれば、蜂蜜や水飴のようだった。しかし、べたつくというよりもツルツルとした感触がする。 「これか? これはな……」 「ひやぁっ!」  鷹臣が風呂桶の中に作った大量のローションを手に纏わりつかせ、そのままセイルの上半身へと塗り付けてきた。 「な、なんですかぁ、これぇ!?」 「だから、ソーププレイだっつってんだろうが」 「何で私にこれ塗ってくるんですかぁ」 「そりゃ、こうするからに決まってんだろ」 「わぁっ!」  腕を引かれ、マットに寝転んだ鷹臣の上に乗せられる。ヌルヌルとした感触。でも、互いの火照った肌が擦れて気持ちが良い。 「んっ」 「逃げんじゃねぇ」  尻をガッチリと掴まれる。そのまま後孔の中へと指を滑り込ませてきた。 「あっ」  ローションのぬめりを借りて易々と指を受け入れる。久しぶりに訪れた指に直腸は歓喜のままに締め付けた。 「そのまま上半身を動かせ」  言われるがままに体を滑らせる。触れている場所がヌルヌルとして気持ち良い。肌同士のふれあいがここまで快感に繋がるとは思わなかった。  乳首の先端が鷹臣の肌に擦れて勃ち上がってしまう。それだけでもイイのに、後孔の中で指を蠢かされている分、快感は二倍になる。 「あっ、あぁっ……」  良すぎて体が勝手に動いていた。性器が屹立し始める。気持ち良すぎて、性器を鷹臣の体へと押し付けて擦ってしまう。 「んっ」  後孔内の鷹臣の指先が前立腺に到達する。ヌルヌルとした指でその場所を何度も擦られ、思わず達しそうになってしまう。咄嗟に性器を握り込んだが、ローションに塗れていた性器は滑り、逆に愛撫するような形になってしまった。 「あああっ!」  思わず鷹臣の腹の上へと吐精してしまう。久方ぶりの直腸への刺激はあまりにも強すぎた。  前立腺に加えて性器への直接的な刺激。意図して行ったわけではないが、どちらも我慢できるほど耐性は強くない。 「おい、一人で勝手に気持ち良くなってんなよ」 「ごめ、……なさい……」  鷹臣の体の上でビクビクと体を震わせ続ける。直腸での快感はそう簡単に耐えられるものではない。それなのに、イった後も鷹臣は前立腺を愛撫し続けている。これでは我慢しろという方が酷だ。 「やめ、て……もぉ……そこ、ばっかぁ……」 「好きだろ? ここ。イってもまた硬くなり始めてんじゃねぇか」 「んぅっ」  羞恥に肌を染める。鷹臣の言葉通り、絶頂を迎えて間もない性器は既に先走りを零していた。このままでは、またしても一人淫らに達してしまう。 「鷹臣、さんの……挿れさせ、て……」 「何だよ、もう我慢できねぇのか?」  腹の上でコクリと頷いた。  どうせ、このまま続けてもまたセイルだけがイかされる。  だったら、鷹臣のモノで二人共に絶頂を迎えた方が何倍も良い。  この淫らな宴はきっとこの一回だけで終わるとは思えないから。  緩慢な動作で鷹臣の体から上半身を起き上がらせる。途中、ローションで滑りそうになったが、鷹臣が腰を支えてくれたため無様に顔から突っ伏すことだけは免れる。  鷹臣の性器も隆々と勃ち上がっていた。相変わらず凶悪な見た目をしているが、これが中に入った時の悦楽を思い出して生唾を飲み込んだ。  性器の根本に指を添え、後孔を先端へと押し付ける。容易に入り込んで来る極太性器。拡げられる直腸が気持ち良い。 「あっ!」  できうる限り慎重に挿れていたつもりだったが、脚が滑って一気に結腸まで挿入してしまった。急激に訪れた刺激に直腸が驚く。ずっしりとした体積に押し広げられ、軽くイってしまう。 「おら、ちゃんと動けよ? 俺はまだイってねぇからな?」  マットに寝そべり、ニヤニヤしながら見上げてくる鷹臣に小さく頷いた。  分かっている。ちゃんと動かなければ遅漏の鷹臣を絶頂まで導けない。 「ひゃぁっ」  鷹臣の見事に割れた腹筋の上に手をついて腰を持ち上げようとしたが、ローションで滑って上手くいかない。何度挑戦しても滑るばかりでまともに腰すら上げられなかった。 「ったく、不器用な奴だな」 「こん、なの、無理ぃ、ですよぉ」  とうとう滑って鷹臣の胸にダイブする格好となってしまった。後孔に深々と挿入してはいるものの、全く注挿できていない。 「お前が不器用なのは分かっちゃいたが、くくっ、想定以上だな。こんなんじゃソープになんて沈められねぇよ。……まあ、もとより、もうそんな気もねぇけどな」 「へ? 今、何か言いました? って、わぁっ」  セイルを乗せたまま、鷹臣が腹筋を使って上半身を起こす。対面座位の格好でシャワーをかけられた。ヌルヌルとしたローションが全身から流れ落ちていく。ローションを纏っての肌同士のふれあいは気持ち良かったが、いかんせん慣れないことをしながらの挿入時には不便が多すぎる。  全身洗い流された後、鷹臣は性器を挿入させたままセイルを抱え上げた。足のつかない心もとなさから鷹臣に両手両足で抱き着く。  そういえば、以前にもこうやって運ばれたことを思い出した。あの時とは気持ちが違う。  それはセイルだけでなく、きっと鷹臣も同様のはずだ。  運ばれてきた広いベッドの上。柔らかな掛布団が心地良い。 「あっ」  セイルの脚を肩にかけ、鷹臣が腰を動かし始めた。結腸を叩く先端の気持ち良さ。それに、凹凸で擦られる直腸の襞。どちらも甲乙つけがたい。 「んっ、んんっ」  ゴリゴリと結腸を突かれる快感に身を捩って喘ぐ。  ただ、結腸を抜いた先にあるS状結腸まで貫いてはくれない。そこが一番悦楽を感じられる場所だというのに。  今日は何だか少しばかり焦らされている気もする。どうしたのだろうかと閉じていた目を開いてみれば、鷹臣がスマートフォンのカメラをセイルへと向けていた。 「やだ、撮らないで、くださ……」  腕で顔を隠す。少しは慣れてきたものの、男なのに同性に抱かれているというのは恥ずかしい。そんな姿を記録しないでほしい。 「たまには良いだろ。いつもやってる訳でもねぇし。それに、ほら、見てみろよ」  鷹臣が指さしていたのは、ベッド近くに設置されていた大きなテレビだった。そこには、セイルの顔がアップで映し出されている。 「ええええっ!? な、何ですかぁ、これ!?」 「すっげぇよな。今、スマホの映像をこうやってモニターで映してハメ撮りできるんだってよ。よく考えるよなぁ。……って、興奮してるからって、あんまり締め付けすぎんじゃねぇよ」  モニターがセイルの頭上にあったことで指摘されるまで気付かなかった。これには堪らず涙目になる。 「やめてくださいよぉ! 悪趣味です!」 「そうか? 興奮するだろ、こういうの。お前だって同じだろ?」 「嫌ですって! こういう行為は二人だけでしっぽり楽しむものじゃないですかぁ!」 「だから二人っきりでやってんだろ? 誰に見せてる訳じゃねぇ。俺だけが楽しんでる」 「だーかーらぁ、二人共楽しくなきゃ……ひぁんっ!」  ひと際大きく突き上げられる。結腸も弱い場所の一つではある。そこを突かれて我慢できるほど不感症ではない。むしろ、慣れていない分、快楽には弱い方だ。 「ひゃめっ、やぁっ! あっ!」  遠慮なく穿たれる結腸に目元を覆っている腕が涙で濡れる。目元を隠しているため、セイル自身には見えていないものの、鷹臣に見えているものは全てモニターに映し出されているのではないかという気になってくる。  足先を蠢かして鷹臣の背中を蹴る。大した抵抗にはならないだろうが、精一杯の意思表示だ。 「腕、外せよ。見えねぇだろ」 「やです! こんなん、見られたくないです!」 「セイル」  名を呼ばれ、ピタリと動きを止めてしまう。  この人はズルい。そんな風にいつもしないことをすれば、言うことを聞いてしまいたくなる。  恐る恐る顔から腕を外していく。相変わらずスマートフォンのカメラは向けられたままだ。 「それ、本当に嫌なんです。どうか、お願いだからやめてください。やめていただけるなら、私何でもしますから」 「何でも……? 言ったな?」  鷹臣が不敵に笑う。その笑みにゾクゾクとするが、二言はない。少しばかり怯えながらも小さく頷いた。こんな羞恥をかき立てられるようなこと、これ以上はないだろう。だったら、別のことで代替してもらえるというのならばその方が良い。  鷹臣はしばし考え込んでいたようだが、相変わらずスマートフォンを向けたまま真剣な表情でセイルを見つめてきた。 「なら、俺のことを、どう思ってるか。正直に言ってほしい」 「へ……?」  目をパチパチと瞬かせる。想像していた条件とは真逆に近い。もっと酷く羞恥心をかきたてられるようなことを言ってくると思っていた。  それでも、やっぱり本人を前にして自分でも一度も言ったことのない言葉を言うのは恥ずかしい。  視線を左右に泳がせる。言ってしまっても良いものなのか。分からず頭の中がごちゃごちゃだ。 「セイル」  業を煮やしたような低い声。チラリと鷹臣を盗み見る。真摯な眼差し。偽りを述べられるような雰囲気ではない。 「……………き」 「あ? 聞こえねぇよ」 「……す、き……です」  プルプルと羞恥で身を震わせながら絞り出すように小さく告げた。  言ってしまった言葉はもう元には戻せない。告白というものがこんなに恥ずかしいものだとは思ってもいなかった。兄とミアナもどちらからかは分からないが、こういう経験をして結ばれたのだと考えると、心底すごいと思える。  鷹臣はセイルの告白を聞いた後、しばらく硬直していたが、スマートフォンをベッドの端へと放り投げると、ギュッとセイルを抱き締めてきた。 「たかおみ、さん?」  密着した肌と肌。肩に入っているボタンの墨が目の前にある。 「うるせぇ。ちっと黙ってろ」  ギュウゥと抱き着いてくる腕は苦しい程だ。  セイルよりも短い鷹臣の耳が見える。いつもよりも赤くなっていた。  そこで気が付いた。言わせるだけ言わせておいて、この人も照れているのだと。  何と愛らしいことだろうか。いつも不遜な態度をしているこの人が、こんなに目に見えて可愛らしくなるなんて考えたこともなかった。  胸の中がキュウと締め付けられる。  愛したいし、愛されたい。  この目の前の人を真綿でくるむみたいに優しく包み込んで、愛してあげたい。  乾いた土に水を与えるように、あまり愛され慣れていないであろうこの人に、たくさんの「好き」を贈りたい。  言葉にするのはやっぱりまだちょっと照れくさいから、態度で少しずつ示していければ良い。 「いっぱいギュッてしながら、キスしてくれませんか?」  耳元で囁いた。背中に手を添わせる。  鷹臣はあまり背中を見せてはくれないが、そこには見事な昇り龍の墨が背中一面に入っているのを何度か見たことがある。鷹臣の力強さを象徴するような迫力のあるその墨を撫でるように背中を擦った。 「んっ」  顎を取られ、唇を奪われる。入り込んで来た舌は強引にセイルの舌を絡め取る。  同時に再開される下腹の注挿。上から突き下ろすように何度も奥へと挿し込んでくる。結腸などものの数回で抜かれ、鷹臣の太く長大な性器を受け入れていた。  腰が浮き、少し態勢としては苦しい。しかし、鷹臣の体と密着しているこの格好は嫌いじゃない。  太く逞しい腕に抱き留められたまま唇を貪られ、下腹では体内の奥の奥まで極太の性器で満たされる。皮膚でも体内でも鷹臣を感じられる。この快感を知ってしまった今、他の誰かでなど代用が利く気がしない。女性とお付き合いをしても後孔の刺激に慣れ切ってしまった体では勃起できるか不安になる。だからと言って、鷹臣以外の男性を体内に入れるなんてもっての外だ。 「んっ、んんっ」  セイル自身も積極的に舌を絡ませていく。もはや、互いの唾液で口内はどちらのものとも分からない。  でも、それも嬉しい。混ざり合い、一緒になることで一つになれている気がする。  もう鷹臣の性器で力強く穿たれなければ満足なんてできない体になってしまった。この圧倒的な力強さを失って生きていける気がしない。  直腸の襞が鷹臣の肉棒にひれ伏す。前立腺を始めとして、敏感な襞は通過する度にゴリゴリと擦って行く刺激に酔いしれる。 「んんぅ、んっ」  近づく絶頂。剛直で貫かれ、何度も激しく奥を穿たれる度、頭が馬鹿になっていく。今行っている性交だけが世界の全てになり果てる。直腸なんて体のたった一部分でしかないのに、そこで受ける刺激に支配される。よくよく考えればとんでもない行為だが、受けている時には何も考えられない。  中にいる鷹臣も吐精は近いはずだ。拓かれている直腸のキツさが物語っている。  後孔に他者の体を受け入れたことがないため比較などしたこともないが、埋め込まれている真珠による凹凸の分だけ常人よりも太いはずだ。その真珠がなくとも十分すぎる程に太いというのに。  凹凸に翻弄される括約筋。何度も注挿され、最後には閉じることすら忘れて中に出された白濁を零して呼吸するように蠢いているが、今はまだ一回戦目ということもあり、貪欲に鷹臣の陰茎へと食らいつく。そのため、凹凸が通る度に強い刺激と共に苛められている。そして、それがまた快感へと繋がっていた。 (鷹臣さん……鷹臣さん……)  口づけで塞がれているため、心の中で何度も名を呼んだ。その度に背に回している腕に力を込める。ばちゅばちゅと部屋中に鳴り響く水音交じりの肌を打つ音。耳からも犯され、五感全てで鷹臣を味わう。  大きく引き抜かれた腰が一気に最奥まで突きつけてきた。S状結腸で浴びる熱い飛沫。鷹臣に体内から染められる気分になる。  同時にセイルも絶頂を極めた。密着した互いの腹を白濁で汚す。ビクビクと精を吐き出し続けながら体内にいる鷹臣を締め付けた。  注挿されている時も好きだが、二人で絶頂を迎えるこの瞬間も堪らない。共に一つになっている感覚。生きてきた世界も何もかも違うけれども、今この時だけはそんなこと何も気にしなくて良いと思える。  長い長い吐精の時間。鷹臣の精によって、腹の中は温かく満たされている。  この子種たちが役割を果たすことはない。  しかし、『想いを繋ぐ』という意味では充分に役立っていると思う。  唇が離れて行く。寂しくて、鷹臣の後頭部を掴んで自分の方へと引き寄せた。  離さない。こうしている今、どこかが触れ合っていないなんて許せない。  再開される腰の注挿。まだイったばかりで直腸内は敏感すぎる。  それなのに、鷹臣の性器は既に硬くなり始めていた。未だ吐精後で力の抜けたセイルの性器とは対照的だ。回復のスピードが早すぎる。これで絶倫なのだから堪らない。  ユサユサと鷹臣の動作に呼応するように揺れる体。まだ少し敏感すぎて苦しいが、嫌いじゃない。  瞳を閉じる。感覚の全てでもっと鷹臣を感じられるように。

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