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第4章:抗争 第5話①

 社務所裏手の駐車場付近を掃きながら考え事をしては悶えるを繰り返す。境内の目につく場所を掃除していた時にはかろうじて平静を装っていたのだから、人目のない場所でくらいは許されたい。  多分、昨日、鷹臣とは思いを寄せ合った。……と思う。「好き」と伝えたし、鷹臣からも海でそれに近い言葉を貰った気がする。  今まで、こんな関係になったことがなかった分、どう振る舞って良いのか分からない。昨夜はラブホで散々まぐわい、気付けばマンションの寝室に寝ていた。きっと途中で落ちてしまい、鷹臣が家まで運んでくれたのだろう。どんな顔して会えば良いか分からなかったが、それでも思いが通じ合った翌日、一緒に住んでいるというのに顔を見られないのは寂しい。  今日は早く帰ってくるだろうかと考えるだけで胸がドキドキとはやる。何か美味しい物でも作って待とうと決意する。  しかし、そこで鷹臣の好物が何か知らないことに気が付いた。そして地の果てまで落ちるような落胆をする。人目がないことを良いことにこんなことを繰り返してばかりいた。  しょんぼりしながら掃除を続けていると、一台のハイエースタイプの車が駐車場へと入って来た。参拝客用の駐車場は鳥居の隣にある。この場所は関係者用であることを告げようと車へと近づいた。窓には車内が見えないように黒いスモークフィルムが貼られている。運転席へと近づき、窓をノックした。 「すみません、こちらは関係者のみの利用となっていますので、ご参拝の方は……」  扉に向かって声を掛けていると、運転席の後ろのドアを開く音がした。音の方へと顔を向けてみると、黒いスカジャンを身に纏った若者風の男性が降りて来た。あまり神社を訪れるタイプとはかけ離れているが、たまにSNSを見てセイルに会いに来る人もいるため、一概に参拝客ではないと言い切れない。 「あっ、すいません、こちらの駐車場は……」  運転席の人が降りて来る気配を見せないため、代わりにスカジャンの若者に話しかけたが、男性は無言でセイルの襟首を引っ張ると、首筋へと黒くて四角い物体を押し付けてきた。冷たいと思った次の瞬間、バチッと大きな音がする。  一瞬にして目の前が暗くなっていた。

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