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第10話

       結末 ― 完全支配  抗争は終わった。  血の雨が止み、街には不気味な静けさが戻っていた。  牙琉は傷を抱えたまま、天堂ルイの部屋へと連れ込まれた。  豪奢なソファも、煌びやかなシャンデリアも目に入らない。  ただ彼の前に立つ“飼い主”の影だけが、鮮明だった。  「若頭様?」  冷ややかな声が降りてくる。  「もう俺の言葉がなきゃ立てねぇんだろ」  牙琉の背筋に電流が走る。  誇りも肩書きも、この瞬間には何の意味もない。  彼はゆっくりと片膝を折り、床に跪いた。  「……もっと命令してくれ……」  吐息混じりの願い。若頭であるはずの男が、震える声で乞う。  ルイは口端を歪め、顎を掴み上げた。  「犬は黙って従え。……吠えるのは俺が許した時だけだ」  硬質な声が鼓膜を打つたび、牙琉の身体は痙攣する。  熱が奔り、理性が砕ける。  跪いた姿勢のまま、背中に汗が伝った。  「言え。誰の犬だ」  「……ルイの……犬だ……」  その瞬間、牙琉の首筋に牙が突き立つ。  噛み跡が刻まれ、熱と痛みが脳を灼く。  血の味が滲む口づけと共に、彼は命令一つで絶頂へと追い込まれていった。  「……っ、ルイ……命令、もっと……」  「俺が舵を握る。お前は一生、俺の足元で吠えてろ」  全てを支配する声。  その声があれば、牙琉は何度でも生き返れる。  息も絶え絶えに崩れ落ちる彼の目には、支配者の影が神のように映っていた。  ――跪くこの場所こそ、俺の唯一の居場所だった。 ⸻

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