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序章 /1

 ――Nightmare――  この戦いの勝利はマクブレイン卿にありと、誰しもが確信していたものだった。しかし、必ず勝てる戦いとはいえ、戦場では予測不可能な出来事が起こるのも事実で、いかに戦慣れしている強者であっても気を抜けば命取りにもなることは十分理解していた。  しかし、まさかこのような悲惨な出来事になろうとはいったい誰が予測できただろうか。  ヒース・マクブレインは遠のいていく意識の中で、しかしそれでも手にした剣のグリップを強く握り締めていた。 「ヒース、もうすぐ着くぞ」  戦友のデューイ・コッカーが馬の手綱を操り、背後からヒースを支えながらそう伝える。  ここで死ぬわけにはいかない。何が何でも、だ。  ヒースは自身にそう言い聞かせ、意識が遠のく視界を何度も呼び覚まさせる。その意思に背くかのように、矢の雨が降り注ぐ。ヒースを乗せた馬を守るべく、盟友たちの命がいくつも散っていく。  なんというザマだろう。  よりによって一番心を許していた女に毒を盛られるとは――。  馬が止まるのと同時に、ヒースは地面に転げ落ちるように着地した。デューイはヒースの体勢を整えるべく、急いで駆け寄り、彼を支えながら恐ろしく長い階段を上り、塔の上階を目指す。  重い扉を開け、辿り着いた先に見えたのは、玉座を囲むように配置されている驚いた顔をした兵士数人と、敵大将のアモス・タウンゼント子爵。そして子爵に寄り添うように座している彼女だ。  彼らは勝利を確信していたのか、ワイングラスを片手にくつろいでいた。

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