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「酷い事の真相」
「ぁ……タツヤさん、タツヤさん好き、好きです……ぅあ……」
「さっきから何聞いても俺が好きしか言わねーんだけど。これ大丈夫なんだろうな」
夕方。まだ作業をしていたマスターであるトモと助手である俺タツヤ、そして
「だ、大丈夫っすよ。しっかり貴方に魅了されてる証拠っす。まあ無い感情を植え付けたようなものなんで今は苦しいみたいですが、暫くしたら安定してしっかり受け答えも出来る筈なので、はい!」
世にも珍しい精神操作系、魅了能力者のヒズミダが執務室にいた。
虚ろで溶けた目で涙を零しながら俺に愛を囁いているトモを、俺は冷めた気持ちで見ていた。
コイツについ先程ヒズミダの魅了をかけた。対象は俺。無能力者で何も耐性が無い事もあり、特に抵抗も無く事は済んだ。
この組織……いや、世界の中でも俺は高いレベルの能力を保有している能力者だと自負している。加えて、何かと暴走しがちな能力者達のまとめ役として引っ張る事も出来るリーダーシップも備えているとも。生まれてから高い能力を発現していた俺が組織にスカウトされるのも、そこで能力者が就ける最高職に就けたのも、納得出来る。しかし、それはマスターの『助手』である。皆から頼られ『リーダー』と呼ばれてもあくまで『助手』なのである。
無能力者で、俺の言う事を素直に聞かない、反抗してくる、嫌っているのを隠しもしないトモ。そいつが俺の上に立っている。苛ついて仕方が無かった。邪魔で邪魔で、……始末を考えた。しかし今の御時世、人間が一人消えると大変面倒である。半永久的に隠し通せる可能性もあるがそこまでの労力は割きたくない。しかしこのまま放置していては俺がここの実質的トップになれない。皆に俺の言う事の方が正しいと思い込ませ、トモの発言の効力を弱めても結局まとめ役として存在しているのはトモだ。最終決定権はトモにある。そのトモと意見が食い違えば、トモが周りの同意が得られないからと俺と意見を同じに直さない限りトモの意見が通る可能性が残ってしまう。それでは不完全だ。トモを完全に自分の支配下に置かねばならない。
そこで俺は一計を案じた。ヒズミダが魅了能力者だという事はアルテとヒズミダの会話を耳にしたので知っている。その魅了能力の対象を能力使用者以外に設定出来るならば十分に使える力だ。
気の弱いヒズミダは脅せばすぐにぺらぺらと自分の能力について吐いた。言う事聞かせるのも簡単だった。無許可の能力使用は重罪で渋られたが丁、寧、に、説得したら了承したので良しとした。この後コイツがどうなろうと知った事ではないしな。
「今は魅了で完全に支配されているのでマスターさんの自意識はほぼありませんし、記憶にも残りません! マスターさんの意識を戻した状態で魅了を継続する場合は、こう、マスターさんの顔の目の前で手をパンッと叩いてくださいっす。そうすればマスターさんの意思は残ったままリーダーへ気持ちが傾いた状態に……」
「あっそう。耳にタコ出来るくらい聞いたわ。んじゃ、仕上げにかかるか……お前はもういいぞ」
焦点の合わない目でこちらを見るトモに近寄った。手をひらひらと揺らし、ぺらぺらと喋っているヒズミダにとっとと立ち去るように伝える。しかし、ヒズミダは何か言いたげな雰囲気をまとってその場から動くのを躊躇っているようだった。何だ面倒くさい、とジロ、と睨みつけた。
肩を揺らしたヒズミダは恐る恐る口を開く。
「……あの、リーダー。いくらマスターさんが反抗的とは言えあまりそのう、無理矢理襲うとか下手するとトラウマになるような事はやめてあげた方が」
「俺に逆らうのか?」
とろい事を言うヒズミダを先程よりも鋭く睨みつけ、低く脅す。
「ヒッ⁉ い、いえ、そんな事はないっすすみませんでした失礼します‼」
大層震え上がったヒズミダは、足をもつれさせながらも足早に執務室から逃げ去って行った。……ようやく二人きりだ。
俺はこれからの事に逸る気持ちを抑えきれず、にやにやと笑いながらトモに声を掛けた。
「おーいマスター」
「ぅ……はい、タツヤさん、好き……です……」
相も変わらず俺に好きだと言いながらトモは返事をする。
「俺が好きなら俺の言う事大人しく聞けるよな?」
「はい、うぁ……聞けます……」
「じゃあさ服脱いでくれよ」
好きだ好きだと返事をうっとりした顔で言っていたトモの顔が曇った。
「……え、ふ、服……? 何で、ですか……?」
戸惑っているようだった。魅了の力で言う事を聞こうとしているが、まだ安定していない故に突然の突飛な要求に理解が追いついていないらしい。
「脱げるよな?」
「はい、貴方の、為……なら……」
それでも、少し圧をかければ素直に言う事を聞いた。
服を羞恥があるのかゆっくり脱ぎ、ようやく肌着も脱いだトモが裸で俺の前に立っていた。恥ずかしいのか下を手に持っている服で隠している。どうせ今から隅々まで俺に見られるから無意味だというのに。
「四つん這いになって俺に尻を向けるのと、仰向けになって足を大きく開くのどっちがいい?」
俺はにやにや笑いながら残酷な選択を掲げる。案の定また戸惑った。俺としては戸惑いなど一切見せずにいてくれた方が楽だ。
「え、……え……? なんでそんな」
「どっちのがやりやすいかで決めた方がいいか。とりあえず仰向けになって足広げろ」
「……ぁ、はい」
今の状態では戸惑うばかりで選べそうになかったので執務室のソファーを指差して命令すると、おどおどしながらトモはソファーへ近づいていった。
トモは戸惑いつつソファーに寝転がり、両手で両足を持って足を広げた。そんなトモの上に俺が乗っかる。トモの顔は真っ赤だった。
「俺の事好きだろ、マスター?」
「はいっ、好き、です……!」
魅了の力だと分かってはいるが、嫌っている俺に愛を囁く姿は滑稽で、まるで本当に俺のものになったようで気分が良かった。
「じゃあお前に慈悲をやるよ。抱いてやる。嬉しいだろう?」
「うれ、しいで……ぁ、え……? 」
トモの顔が、俺の言葉を聞いて信じられない内容に驚いたのか困惑に染められた。またすぐに動かない。
「チッさっきからじれってーな。魅了がまだ効ききってないのか? 俺の言う事には『はい』って返事してすぐに命令通り動けノロマ!」
段々と苛々してきて強い口調で怒鳴りつけた。
「は、はいっ……! ごめんなさっ、タツヤさ、好き、です……嬉しいです……!」
「!」
それが効いたのか、涙をこぼし泣きながら嬉しい嬉しいと喜んで返事を返し、俺の首に手を回して抱き着いてきた。トモは何も着ていなかったので肌の体温が直接感じられた。温かい、がうっとおしく……いやあまりうっとおしくはなかった。あのトモが自分に縋り付いているという事はなかなか悪くない。人にここまで密着されるのは初めてかもしれない。
「……動けねえから離せ」
「は、はい」
しかしそのままでは進まないので離れさせた。首から手が離れ、うっとりとこちらを見るトモに、にこり、と笑いかける。
「俺は優しいからちゃんと解してやるよ」
そのままヤると初物の穴に俺のが絞られてしまうかもしれないからな。
丁寧に後ろの穴を解していく。本当の目的はこの後なのでさっさと済ます。トモが気持ちいいかなんて俺には関係ない。
「あっ、……っん、っ……うう」
喘ぎ声、というよりはうめき声は聞こえるので何かしら感じてはいるのだろう。
「っ、あ‼」
「……」
一際大きく声が出た場所があったので、そこを重点的に攻め始める。俺の下でやめてほしいとトモが暴れる。それでも構わずに続けていると一際大きな声を上げてトモがイッた。
「ひ、う、んんん、んああああッ‼」
「弱っ……」
びゅる、と出た精液がトモの腹と俺の顔を汚した。あまりにもすぐに絶頂したトモに少し面を食らう。男との経験は無いので知識でしか知らないがこうも簡単に快楽を感じられるものなのだろうか。
「おいおい初めてなんだろ、雑魚過ぎじゃね?」
言いながら顔を床に落ちていたトモの服で拭く。自分の物で拭くとか御免だった。
「ハーッ……ハーッ……ごめ、なさ……」
息も絶え絶えでトモは謝ってきた。
その顔は赤く紅潮していて、目はまだとろんとしている。目にあるはずの無いハートマークが見える気がするレベルで。よく見ると先程出したばかりだと言うのにトモの性器はまた勃ち上がっていた。
(発情期かよ。……いや魅了の効果か)
恐らく魅了の影響で通常より俺に関してのみ性欲や感度が強まっているのだろう。雑魚過ぎるのもそれが原因だな。
(まあ、それならそれでやりやすい。さっさと済ませよう)
俺はその後、指で穴が十分に広がった事を確認してから勢いよく引き抜き、体をビクつかせて快感に震えているトモの中に
「んひッぐ、…ゔああ⁉ あ、いっ、いぅぅぅっ」
一気に挿入した。奥まで届いた事を確認してから、目を見開いてうめき声をあげているトモの顔をじっと見る。
強すぎる衝撃と快感、感度が高まっていて慣らしたとは言え痛みもあったのだろう、それをやり過ごせずに震えているようだった。別に待つ必要は無い為に、少ししてから律動を開始した。
「んっ、ぐっ、あっ、ひ、うあっ」
突く度に声があがる。苦しんでいるようだが、声からは甘みが感じられる。上げられた感度は痛み程度ではまぎらわせる事は出来なかったらしい。
精神をいじられて、初体験でも感じるようにされて、突かれる度に喘いでいる姿のなんと愚かな事か。このままでも十分加虐心は潤ってくるが……。ただ抜き差しして出すだけではつまらない。
突きながら考える。何か趣向をこらしたい、と。しかし下手に痛めつけるとそれは目的からずれてしまうし、後々此方が不利になる証拠になってしまうかもしれない。
(……ああ、じゃあこうすればいいか)
良い事を思いついた。
「なあっ、俺が一回突く毎にっ、御礼言ってくれ」
「ぅ、あっ、っお、御礼っ……?」
「ありがとうございます! ってさ」
突きながらニッコリとトモに笑いかけた。
まともに回っていない頭でも疑問には思ったのだろう。困惑していた。
「なんっ、あっひぅ、何でぇ……っ?」
「みっともなくて、最高に惨めだから。ほら早くしろっ」
「う、わ、かり……まっ、した」
疑問や拒否の感情が浮かんでも命令すればその通りに動いてしまう。本当に恐ろしい能力だ。
「っ、あ、りがとうござっ、ます! ありがとッーー! ごさ、いま……っ」
「そーそー偉いぞぉ」
わざと一回ずつ、ゆっくりと、しかし力は込めて律動をした。それに合わせてトモの御礼の言葉が聞こえる。
「っは、い! あり、がとう……ございますぅ……っ!」
「っく、ふふふ、ハハッ」
(うわー本当にやりやがった)
笑いが堪えきれない。ビデオカメラか何か回して録画するべきだったかも、と少しだけ後悔した。下手なAVより断然抜ける自信がある。
(……と、あんまりのんびりしてられないな)
一番の目的はこの後の為あまり遊んではいられない。しかし、それに繋がる過程に多少の遊び心があっても支障が無ければ良いだろう。
俺は最大限このまぐわいを楽しみながら着々と迫る目的にも心が躍っていた。
その後二、三回抱いた後
「邪魔だ」
「痛っ……! す、みません……」
ソファーからトモを落として俺がそこに仰向けに寝転んだ。足腰に力が入らないのか床に倒れたトモは上半身は起こしていたが座り込んでいた。俺の方を泣きそうな顔で見ている。……魅了が効いてるからきっと俺の事を何よりも最優先で思考が動いているだろうが、何考えてるのかはよく読み取れなかった。
「おい、俺に跨がれ」
「っ、はい……少し待ってくださ、力が……入らなくて」
無慈悲に命令をする。立とうとしてもすぐにまた座り込んでしまい動かないトモにまた苛つく。
「さっさとしろ」
「……っ、う……っく、はい」
まるで生まれたての子鹿なような足取りで、膝をがくがくとさせながら立ち、ソファーに寝転ぶ俺の傍へと寄ってきた。そのまま、恐る恐る、といった様子で跨がる。
「そしたら俺のちんぽ自分で後ろに挿れろ」
「え、な、なんで」
「同じ事を2度言わせるな」
「……は、い」
トモは自分で自分の穴を広げ、俺の性器を入れようと四苦八苦している。上手くいかないのか何度も滑ってしまいながら、 一所懸命に。
「んぅ……っ」
そうして、ようやく穴に先っぽが入った。
「何回ヤッても反応が初々しいなあ」
ゆっくりとトモの尻に挿入されていく俺の性器を見る。やがてずっぽりと入ったのを確認した。トモは入ったままの状態が落ち着かないのか、俺の上で何かに耐えるように縮こまってしまっていた。
これでトモが俺を押し倒して逆に襲ったという証明が出来る。次だ。
「そしたらさ、ロープやるから俺の両腕、手首の所で縛れ。動けないくらい強く」
事前に用意してソファーの下に隠しておいたロープを取り出し、トモに渡した。少し震えながら受け取ったトモは困惑していたが、恐る恐るロープを俺の手首にまわして縛り始めた。最後にぎゅっと結ばれたのを確認して手がどの程度動くかどうか確かめる。
「こう、ですか……?」
命令通り強めに縛ったらしく、手首をバラバラと動かしても簡単には解けそうになかったので良しとした。
「ふん……まあ良いだろう」
これで俺は自分で自分の手を動かせなかったという証明が出来る。証拠がまた一つ揃った。次だ。
「んで、俺の事を思いっきり何発も殴れ」
「は、……え」
トモは目を見開いて固まった。反射で返事はしようとしたみたいだがその内容の異様さに驚いたのだろう。
「なん、で……そんなこと」
訳が分からないと困惑しているトモに、俺は一層口許を笑みの形に深めて心底楽しみでたまらないのを隠さずに言った。
「そっちの方が被害者っぽく見えんだろ。……ハハッ笑い止まんねぇ」
そしてトモは戸惑いながらも命令通りに俺を殴った。拒否の感情があったらしく、涙をボロボロとこぼして泣きながら。魅了の力で正気を失わせても人を殴る事には抵抗が働いていたらしい。でも命令は聞かなきゃ、ときっと心の中で葛藤をしているのだろう。
俺は大人しく殴られ続けた。痛くて痛くて仕方が無いが、これも布石の為だ。俺の顔はきっと所々真っ赤に腫れ上がって、みっともないだろう。だがそれが目的だった。
殴っている方の手にも人を殴った感覚は痺れとして残っているだろう。
これで俺は一方的に痛めつけられたという証拠が出来た。
これで盤面は揃った。
「さあて、お前はどんな顔で絶望してくれるかなーっと」
俺はあくどい顔で笑いながら両手をあげ、殴り終わった後はらはらと泣いて呆然としているトモの顔の前まで持っていき、手首を縛られたままだったので少し苦労したが手をパンッ‼ と叩いた。
トモは猫騙しをくらったかのように驚いて肩を揺らして目を瞑った。
そして目を開いた時には
「……え?」
正気に戻っていた。
「マス、ター……突然どうした」
傷ついているフリ、しおらしいフリを心掛けてトモに声を掛ける。
「え、これ……どういう事……? え……?」
「どういう事って、それはこっちが聞きてえんだけど」
トモは現状が飲み込めずに混乱しているようだった。俺を見て、自分の体を見て、部屋を見渡して視線を落ち着き無く彷徨わせて目を泳がせている。
「な、何でタツヤさんが縛られて俺の下敷きに、え……?」
「何言ってんだ。お前が強制力で動けなくした俺を無理やり押し倒して襲ったんだろ」
「は……?」
トモは強制力について詳しく知らない。マスターとしてまだまだ勉強中の身で、いつもそばにいる助手の俺がさりげなく強制力関係の書類を遠ざけている為に身につける事が出来ていない。本人も積極的に使おうとはしないお人好しの為、ないがしろにしているらしい。本来なら数秒の足止めしか出来ない力だがハッタリに使わせてもらう。
「っクソ、お前何発も殴りやがって。口ン中切れた」
「……え、え……本当に俺が……?」
俺の顔を凝視して、顔中傷だらけ痣だらけなのを確認したのだろう。トモの顔が青くなり、カタカタと肩を震わせ始めた。
「この状況見てよくそんな事言えるな、ある意味感心するわ」
「だ、だって、俺何も覚えてない……! こんな事するわけない!」
叫ぶように否定を述べるトモを、徐々に追い詰めていく感覚に悦を感じている。
「さっきまで無理矢理組み敷いた俺のを使ってアンアン喘いでた癖に」
意識的に怒気を纏わせて本気で怒っているように語りかける。それに一瞬トモはたじろいだが、それでも必死に否定してきた。
「そんな事してな……!」
「じゃあ今もお前の中に入ったままの俺のと、溢れてる精液は何なんだ」
「入った……まま……」
そこでようやくトモは繋がったままだという事に気付いたらしい。混乱し過ぎだろう。
「え、ええ……えええええ……⁉ 何これ、何これぇ……⁉」
半狂乱になって泣き叫ぶトモ。ここまでショックを受けて興奮している人間を見る機会はなかなか無い為、面白がって見てしまう。が、それをおくびにも出さないように俺はまるで冷静に諭すように言葉を発した。
「なあマスター……トモ、落ち着けって。俺も怒鳴って悪かったよ。ちゃんと、こんな事した理由を聞かせてくれれば俺は怒らねーから」
「だから、知らないっ! 何なんだよこの状況‼」
「……とりあえずさあ、これ解いてくれねえか? あと出来れば入ったままだと集中出来ないからさ、どいて欲しい」
「ヒッ……! 」
顔を恐怖で歪めたトモは慌てて俺の上からどいた。しかし、
「うあっ」
下半身に力が入らなかったらしくそのまま床に転がってしまう。うめき声を上げて、倒れる姿は無様で愛くるしかった。後ろから先程出した俺の精液が溢れているのを見て、思わず口角が上がりそうになった。まずいまずい、と必死に傷ついている被害者のように眉を下げ、困惑した顔を作り上げる。
反対にトモはそれを見て絶望しているようだった。恐る恐るそこに手を伸ばして指についた精液を見て呆然としている。
「……トモ」
「あ……あっ……何これ、俺、何を」
名前を呼んだがソレどころじゃあないようで、困惑したまま錯乱しているようだ。指についた精液を振り払うように振って払い、でも自分の中にも精液が入っている事に絶望して、体を震わせている。
「だから落ち着けって、これじゃまるで俺が加害者みたいだろ」
「加、害……?」
信じられないという表情で目を見開いて、トモは俺を見た。
「だから……お前が、俺を、襲ったんだよ」
「…………そんな」
記憶が無い、でも自分が襲ったという証拠が揃いすぎている。その状態を徐々に理解して、トモは呆然としていた。
「……ぼくが……ほんとうに……タツヤさん、を……」
「ああ……さっきまで光悦とした表情で俺を、ッ……」
「た、タツヤさん?」
殴らせた時に切れた口の中の傷。喋っていたら痛みが走った。鉄の味がする。出血までしたとは。
「ケホッ」
「‼」
まだ両手は縛ったままだったがなんとか口の前に持っていき、そこに口の中の血を吐き出した。思ってたより出血量が多かったみたいだ。手から溢れた血がポタポタと、床に落ちる。
それを見たトモの顔色が更に悪くなった。
「血……血が……これも、僕が……う、うああ」
涙が目から溢れんばかりにこぼれ、手で自分の頭をおさえ、震えながら、
「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい‼ 僕、僕……とんでもない事を、酷い事を‼ ごめんなさいタツヤさんごめんなさい‼」
トモは涙を流して半狂乱になりながら謝りだした。
「しかも記憶が無いなんて。僕、僕……人を、無理矢理襲ってしまう人間だったなんて……なんてお詫びすればいいか!」
「……」
またも口角が上がりそうになる。あんなに憎たらしく思っていたトモに愛らしさすら感じてしまった。ダメだダメだ、ここで笑ったらすべてが台無しになる。
慰めるように、優しく語りかけた。
「じゃあさ、俺の願い聞いてくれるか?」
「勿論です……!」
トモは俺から与えられた贖罪の機会に藁にも縋るように縋ってきた。その滑稽な姿に気分が良くなりつつ、俺はトモにトドメの言葉を伝えた。
「もっと俺を頼ってくれ」
「……は、い?」
トモは呆気に取られていた。俺の言った予想外の言葉をうまく受け止める事が出来なかったらしい。そこに畳み掛ける。
「お前がこんな事をしでかす程追い詰められてたなんて知らなかったんだ。お前と俺達、いっつも敵対してただろ? そりゃあお互いストレス貯まるよな。ただでさえ能力者だらけの中に放り込まれて孤独感だって感じてただろ。皆お前の指示あまり聞いてくれないからな……俺も含めてだが。そこは悪かったよ」
心にも無い事の中に少しの真実を織り交ぜながら俺は言葉を紡ぎ続ける。よく言うだろう? 嘘の中にひとつまみの真実を混ぜると騙しやすいって。
「俺だっていじわるしてた訳じゃない。より良い結果になるように必死に策を考えていたさ。お前だってそうだろう? たまたま今まで意見が合わなかっただけで目指す所は同じだ。これからはさ、もう少し俺の意見に耳を傾けて、俺に頼ってみないか? 一人で頑張ろうとするな」
意識して人の良さそうな笑顔を作り、まるで救いの手を差し伸べるように手を差し出した。
「今回の件は……許す事は出来ないが、受け入れるよ。お前が頑張り過ぎた結果だって。次にこんな事にならないようにもっと俺を……俺達能力者を頼れ」
「た、タツヤ、さん……」
トモは瞳を揺らして、俺を見て、圧倒されているようだった。きっと今のトモには俺が聖人君子にでも見えてるんだろう。そんな訳無いのにな。
暫くすると、固まってしまっていたトモはつう……と静かに涙を流し始めた。その涙がどんどん溢れてくる。
トモは泣きながら、足腰が立たないのだろう、床にへたり込んだ態勢のまま這って俺が座るソファーまで近づいて来た。そして未だに縛られたままだった俺の手に触れた。
「はい、はい……! ありがと、ございます……! 僕、勘違いしてました。貴方は血も涙もない人だと、思ってしまってました」
「酷い言われよう」
「ご、ごめんなさい。でも今なら分かります。貴方は……あんなに酷い事をしてしまう僕を受け入れてくれました。頼ってくれって言ってくれました……こんな素敵な人を、目の敵にしていたなんて」
目を揺らし肩を震わせながら、トモは俺に感謝と懺悔を繰り返した。俺はそれを見て、トモが顔を伏せて涙を拭っているタイミングで、上げたくてたまらなかった口角を上げてニヤ、と笑う。
(これで成した、な)
「で、さ……そろそろ縄解いてくれ」
「あっ、す、すみません……」
◆
諸々の片付け等を済ませ、トモを優しく部屋に送り届け、自分も自室に帰り扉を閉めた後。ずっと我慢していた笑いがついに溢れ出した。
「ッく、ふふ、ハハッ‼ 何だよ俺名演技じゃねーの!」
まあ、魅了を完全に解除したわけじゃないないから俺の話を信じやすくなっていたとは言え……こうも上手くいくとは。笑いが止まらなかった。
これでトモは俺の言いなりも同然だ。一番邪魔な存在だったトモが此方についてくれるなら、もうこの組織を掌握したと言っても良い。これで断然暮らしやすくなるというものだ。ただでさえ運営だかなんだかに管理されて窮屈な生活を強いられて、やりたくもない討伐やらの人助けをさせられてるんだ。力を存分に使えるから戦闘する事自体はいいが……それが自分の意志ではなく上からの命令なのが気に入らない。俺のように優秀な人間ではなく、トモのように能力もない無能が俺の上にいるのが気に入らなかった。
しかし、これで名実ともに俺がここのトップだ。
それに、自分の言う事なら何でも信じて従ってくれる人間がいるのはなんとも心地良い。それが反抗的だったトモならより一層、だ。
策が上手くいって気分が高揚しているのが、俺の中で次々と欲が溢れてくる。こんなに気分が良いのは久し振りだ。
「……このままトモを俺の玩具にするのもいいな」
そうだ、そうしよう。どうせ今のアイツは俺に依存している。抱いたとしても抵抗なんてしないだろう。むしろ泣いて喜んでくれるんじゃないか? 無理矢理襲った自分を排除しないで慈悲を与えてくれるなんて、とか今のトモなら言い出してもおかしくない。
「玩具のままでいてくれるなら多少は優しくしてやってもいいしな」
そうだ、もうアイツは俺のものなんだ。
あんなに憎たらしく思って常に目の上のたんこぶとして目が離せなかった奴が愛らしく見えてしまったのは、きっとそうだからだろう。アイツはもう俺のもので、生かすも殺すも俺次第なんだ。
「ふ、はは、ははははは!」
楽しくて愉しくて仕方が無かった。魅了の力は術者本人が解除しないと永遠に完全には解けきれない。先程俺がやったように魅了の対象になってる人物ならば多少緩める事は出来るが。つまり、トモは自分の異常に気付く事が出来ず俺から逃げ出そうとする発想すら抱けない。決して俺の檻の中から出られない。
そして、ヒズミダは今頃地下牢で幽閉されているだろう。地下牢にいる能力者には許可がおりないと顔を合わせる事も出来ない。更に、精神操作系の能力者の無許可の能力使用では……いつ出られる事になるのやら。
これで術者本人が俺の許可なく魅了を解除する心配も無い。
全て上手くいった。全てが俺の思うまま。
俺は最高に良い気分のままその日眠りについた。
それから暫くは俺の思うがままに全てが進んでいった。思った通り、抱いてやったら泣いて喜んだ。ざまあみろ。心地良くて仕方がなかった。
そんな日々がずっと続くもんだと思っていた。
あの日、トモが、俺から逃げ出す筈がないトモが、
「とりあえず本当に結構ですので!失礼します!」
と逃げ出すまでは。
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