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季節外れの台風-1
カーテンの隙間から漏れ出る光に起こされ、ゆっくりと目を開けながら少しだけ伸びをすると、まだ隣で寝ている彼女が「ん……」と甘い吐息とともに擦り寄ってきた。
「華 、まだ寝てて良いよ」
「んぅ……」
寝癖のついた髪を優しく撫で、乾いた涎のあとがある頬にキスを落とし、それから起こさないようにと慎重にベッドから離れる。
あとで顔をきれいに拭いてあげようかな。
いつ見ても涎がすごいけれど、その変わらなさにもはや安心感すらある。
リビングに向かい扉を開けると、昨日の夜に食べた焼肉の臭いがなんとなく残っており、換気のために窓を開けた。
天気は晴れで、気温は過ごしやすい暑さ、そして心地良い風が吹いている。もうすっかり春だ。
「はぁ〜、風が気持ち良いねぇ」
今日は付き合って3年と1日目。昨日は久しぶりに彼女と休みが合ったから、少し良い値段の肉を購入し焼肉をした。
付き合った記念日と、それから同棲を始めて半年の記念日でもあったから。
どこかに食べに行っても良かったけれど、彼女の希望で外食ではなく、自宅でふたりきりの時間を過ごした。
付き合って3年にもなれば、胸が躍るような出来事は彼女との間には減ってきたけれど、それでも変わらず愛おしく思うし、乾いた涎だって俺からすればいつ見ても可愛いものだ。
改めて大切にしようと思ったし、ずるずると同棲を続けるつもりもない。そのために今後のことも考えて、今のふたり暮らしには少し広い3LDKの部屋を借りたのだから。
夏にある彼女の誕生日にはプロポーズをし、この生活が穏やかに続いていくよう改めて覚悟を決めるつもりだ。
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