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季節外れの台風-15

 この歳になって妹をハグするのはおかしいことかもしれないけれど、小春の背中に腕を回し、最後にぎゅっと抱きしめてから離れた。  そのタイミングで母さんがパンパンと手を叩き、俺たちを注目させるとコホンと咳払いをした。  それを見て、小春の目が輝く。  何だ? ふたりの切り替えが早くないか? 「それならちょうど良かったかもしれない。あんた、確か3LDKだったよね? 華ちゃんいないなら部屋に余裕ができるよね? 住んで半年だから更新もまだだし、すぐに引越しもしないでしょ?」  うんうん、と謎に小春が頷きながら聞いている。えっ、何? まさか小春が俺の家に住むってこと? 「すぐにはしないけど、さすがに数か月くらいで出て行く予定だよ。あの家にひとりで住み続けられないし」 「分かった。引っ越しはしないで」 「え? 俺は何も分からないんだけど。小春が俺のところに住むとか?」 「小春じゃないよ。小春の部屋はもう決めてあるから。あのね、(つばさ)くんなのよ」 「は? 翼?」  久しぶりに聞いた名前に、思わず聞き返した声が裏返ってしまった。  翼は小さい頃から近所に住んでいる子で、いわゆる幼なじみだ。  けれど、学年は小春と同じだから俺よりだいぶ下だし、俺の幼なじみというより小春の幼なじみ、という印象でしかない。  そりゃあ俺が大学進学と同時に家を出るまでは、しょっちゅうこの家に来ていたから、もちろん他人ではないものの、かと言って一緒に暮らすことをポジティブに受け止められるほどの関係性ではない。  昔ならまだしも、今は。

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