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第5話「誕生会(後編)」
一通り挨拶を終え休憩しているところに両親がやってきた。
「お前に紹介したい人がいる。」
「初めまして、ルシオ様。カルロ=スフォルツァと申します。以後お見知り置きを。」
「彼は町の教会で勉強を教えていた神官だったのだが、本格的に教師を目指すために退官した。そして我が家で支援するかわりにお前の家庭教師をしてもらうことになった。」
カルロも攻略対象だ。
彼は攻略対象の中で最年長の25歳、銀色の長い髪の中性的な雰囲気で唯一の眼鏡キャラ。
元々伯爵家の生まれだが、小さい頃に賊襲に遭い両親を失っただけでなく、親戚の不祥事で爵位返上の取り潰し、神殿の孤児院に身を寄せていたという過去がある。
そのような過去にもかかわらず、勤勉で誰に対しても分け隔てなく接し、眼鏡の下は常に柔らかな笑顔で穏やかな口調からまさに聖職者の鑑とされ、周囲は皆そのまま司祭になるものだと思っていた。
しかし、勉強嫌いの子供たちも彼が教えると素直に勉強するため教育者としても評価が高く、教師を目指すことについて反対する者は1人もいなかった。
俺は彼の境遇に同情はしたが、どうしても笑顔と眼鏡が胡散臭く感じてしまい苦手だった。
しかし王子ルートでの彼は最後まで評判通りの人物だったため深く関わらなければ問題ないだろう。
「カルロ先生、これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ。
…ルシオ様はさすが貴族といいますか、なにやら年齢以上の雰囲気がございますね。」
まあ魂は元アラサーだからな。
「「「キャー!!!」」」
先生との顔合わせを終えたその時、突然会場の入り口付近から黄色い悲鳴が聞こえてきた。
発生源に目を遣ると、同年代の中でも背が高い王子やエリオットよりもさらに頭一つ分抜けた青年が立っていた。
うわ、Gも来たか…。
悪役令嬢アンナの義兄、ジェローラモ=カヴール。
彼が6人目、最後の攻略対象だ。
カヴール侯爵家の三男で、見た目だけはアダルベルト王子に並ぶほど。
短めに整えられた紺色の髪は清潔感があり、男女問わず人気がある。
しかし、彼の見た目の爽やかさに反して誰彼構わず手を出し、家にもほとんど帰らず放蕩生活を送っている。
あちこちで敵を作ってそのうち刺されればいいと思っているが、なぜか誰も恨んだりはしていないらしい。
元々男女の見境がない彼は、俺が男だろうと女だろうと関係なく手を出す可能性があるので最も注意しなければならない。
実は王子ルートで王子の次に出番が多かったのはこのGだ。
Gというのはゲーム内での通称ではなく、ジェローラモの頭文字と黒いアレをかけて俺が勝手に名付けて呼んでいるだけだ。
Gの次兄が入婿として悪役令嬢の姉と結婚し義兄となったため、王子から主人公 を引き離したい悪役令嬢が義兄をけしかけ、行く先々で現れては主人公 を手篭めにしようと絡んで邪魔をしてくる。
そして捕まってしまうとNormalエンド以下確定。
Gルートへの分岐はなくただただ弄ばれるだけで、誰も幸せにならない。
これが俺がGと呼び忌避する理由だ。
遊ぶ金欲しさにたまに実家や義実家で小間使いのようなことをしており、そんな彼は義妹のお迎えのためにここへ現れた。
「ルシオ様、お誕生日おめでとうございます。急な用向きで伺ったためお祝いの品をご準備できなかったことをお許しください。誕生日の贈り物はまた後日お持ちいたします。」
「ジェローラモ様、そのお心遣いをいただきましたので十分でございます。アンナ様はあちらにいらっしゃいます。」
挨拶もそこそこに、さっさと連れて帰れと促す。
7歳も年下だし、まだ12歳の子供相手に手を出すことはないだろうが、下手に接点を持つと将来の自分が泣くことになるので回避しておくに越したことはない。
「アンナ、迎えに来たよ。」
Gは特にこちらの態度を気にした素ぶりもなく、颯爽と義妹をエスコートし帰っていった。
…普通にしていればかっこいいのにもったいない。
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