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おまけ そしてワルツを一緒に③

 翌朝、窓の外には真っ白な大地が広がっていた。それが白金色の朝日をはじいて非常に眩しい。  換気のために隙間程度あけた寝室の窓からは少し湿った冷たい風が吹き込んできたが、暖まった部屋の中ではそれが逆に心地よかった。 「意外と体は覚えていたもんだね」  璃空はベッドの中に座ったまま、ウサギちゃんに切ってもらったリンゴを食べつつ言った。その腰にはいくつものクッションがひかれていて、痛みを感じにくいちょうどいい角度に設定されている。 「客人は?」 「朝食を召し上がって、タクシーで早くに空港へ。お忙しい方なんだね」 「その分野では権威だそうだから、あっちこっちに引っ張りだこなのさ。あと、この国の土産を買わなきゃいけないらしい。故郷で孫が待ってるって。何か言ってた?」 「次の機会までにはきちんとメンテナンスをしておくように、だって。ぎっくり腰は癖になるのに無理するから」  傍らに座る悠翔は次のウサギちゃんを作りながら小さくため息をついた。  璃空は悠翔と一緒に定期的にジムに通ってはいるが若かった頃とは違う。ただでさえ筋肉がつきにくい体が過労や寒さでこわばってしまうと、ちょっとした事で高過ぎる身長を支える筋を痛めてしまうのだった。  ただ璃空は悠翔の指摘に対して意義を申し立てた。 「それを言ったらこれはダンスのせいじゃないよ。昨晩魅惑的な腰つきの君が僕をベッドで濃密に誘惑したからさ」  言われて悠翔の手が止まる。真っ赤な顔をして視線をそらした。 「……だから避けてたのに」  セックスはする。年齢は半世紀を超えているけれども。  年齢が年齢であるし、分別ある大人としての理性や体の限界が欲望に制限をかけるので、いつもさほど激しくはない。抱き合って、キスをして、ゆっくり交わって、軽い疲労感の中で眠る。  それが昨晩はまるで性欲を持て余していた若い頃のように悠翔と璃空は求め合ってしまったのである。 「僕の指は……気持ちよかったかい?」  璃空は悠翔の耳元で熱く湿った声で囁く。  綺麗に手入れされた長い指がそっと悠翔の耳に触れ、首元をたどり、肉付きのよい胸の先でつんと薄手のシャツとエプロンを押し上げている先をもてあそぶ。  昨晩の悠翔は年齢不相応に張り詰めた腰を高く上げて、肉付きのよい谷間で縦割れになった秘穴を太くて短い指で押し広げて璃空におねだりしたのだ。  僕の指じゃ、いいところに届かないから、触って……と。 「そんなかわいくお願いされたら、萎えるわけないよね」  久しぶりに一晩に複数回、気がついたら白い雪の大地が夜明けの薄青に染まるのを二人は見た。  朝になってみると赤面が戻らない程恥ずかしい痴態の夜だが、そうなってしまう理由を悠翔は知っている。ダンスをした後で興奮を引きずったままセックスしていた若い頃の習慣と条件付けのためだ。  どちらももう若くはないので、激しい『運動』は控えるように、と医者からは言われている。客人らにダンスを辞めた理由を詳しく話せなかったのは、ダンスをすると濃密な夜の営みをおねだりしてしまう以上、無理を避けるためにはダンスを控えなければならなかったからだ。  ただ疲労の限界による被害を発症した当の璃空はご機嫌だった。 「嬉しいよ。まだ俺をそこまで求めてくれてたなんてね」 「当たり前だろ。今でも君は僕の王子様なんだから」  悠翔は璃空の頬を薬指にプラチナの指輪がハマった左手を添えて、ちゅっと右頬にキスをする。 「久しぶりだったから夢中になりすぎたのは認める。ごめん」 「その罪悪感で、今日は一日君は俺の専属コックだね。さあどんなわがままを言ってやろうかな」 「馬鹿言ってないで安静にしてなよ。今日はスタッフに任せてるから、ずっとここに居てあげるよ」  もう一度、今度は唇に悠翔からキスをする。  吐息が風を産む距離で視線が絡む。  今度は璃空がキスをする。  そよ風の入る寝室では、楽しそうな忍び笑いと口づけを交わす音がしばらく続いていた。 《おわり》

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