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「素晴らしいです、健人さん。これなら、どこに出ても恥ずかしくない、紳士です!」 「そ、そうかな?」  由宇と健人は連れ立って、老舗百貨店のメンズフロアへ来ていた。  ネクタイから革靴まで、高級ブランドでピシリと固めた健人は、鏡を見て照れている。  スタッフも、その姿だけでなく、由宇のコーディネートをしきりに褒めた。 「素敵なお取合せですね。お客様は、アパレルのお仕事をなさっておいでですか?」 「いいえ。健人さんがカッコいいので、似合うんです」 「ゆ、由宇くん。恥ずかしいよ……」  スタッフは笑顔になったが、由宇のセンスには惚れ惚れしていた。  身に着けるものを、全てブランドで飾り立てる金満家は珍しくない。  しかし由宇は、それが嫌味に見えないよう、ちゃんと計算しつくしているのだ。  カラーバランス、素材の合わせ方から、袖丈、裾丈、清潔感。  どれを取っても、そつが無い。  そんなスタッフの熱い視線を気にも留めずに、由宇はサクッと購入を決めていた。 「じゃあ、このスタイル一式を全部ください。健人さん、このまま着て帰りますか?」 「いやいや、緊張して今後のショッピングができなくなるよ」  楽しそうに話し合う健人と由宇の姿を、スタッフは微笑ましく見ていた。

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