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草むしりをしていた、という割には、ちゃんと夕食の支度は整っていた。
「暦の上では春ですが、今日は妙に寒いので、おでんにしました」
「ありがとう!」
鍋料理は、独りではなかなか食べることのない献立だ。
もちろん、一人前用の小さな土鍋や、少量パックの食材もある。
それでも健人は、たった一人で侘しく鍋をつつきたくはなかった。
由宇がこの家に来てくれたおかげで、食べられるようになった喜びを、噛みしめた。
「うん、美味しい!」
「良かった」
大根、こんにゃく、がんもどき。
玉子に、はんぺん、巾着餅。
どれも、具材のアクや臭みが全く感じられない。
だしの風味を活かした、上品な味わいだ。
「これって作るのに、下ごしらえが大変だったんじゃない?」
「とても面白かったです。具の種類によって、方法が違うんですね」
それらはデータとして、由宇のAIにインプットされている。
だが、実践するのは初めてだ、と彼はうなずいた。
「僕を造ってくれた人も、そういう境遇なんです」
「知識はあっても、実践しない、ってこと?」
「しない、というより。できない環境にいるんです」
健人は、由宇の製作者に改めて関心を持った。
しかしやはり、話がそらされてしまうのだ。
「興味深く作ったので、ちっとも大変なんかじゃありませんでした」
そう言う彼は、いい笑顔だ。
「いろんな具材を試して、毎日おでんを作りたいくらいです!」
「おでんは好きだけど、毎日は止めて!」
こんな賑やかな、楽しい夕食を二人は過ごした。
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