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第十二章 金曜日のハプニング

 食事の約束をした金曜日までに、美咲は頻繁に健人のデスクを訪れた。 「長谷川さん、差し入れですぅ!」 「いつもありがとう。ごめんね」  手には、ガンデオンの缶コーヒーだ。 「これって、何て名前のロボットなんですかぁ?」 「うん、これはね。モビルギャリアの、ブルーショルダー02」 「長谷川さん、すごぉい! 詳しいんですね!」 「いやぁ……それほどでも……」  美咲がくれたコーヒーにプリントされたメカは、ファンなら絶対に知っている。  なにせ、主人公のライバルが、一番最初に乗っていた機体なのだ。 (それに『ロボット』って。ガンデオンなら『モビルギャリア』なのに)  健人のご機嫌を取るような真似をしながら、その趣味を深く知ろうとはしない、美咲。  彼女の薄っぺらな好意が、見え見えだ。  それを少々ストレスに感じた健人は、美咲に訊いてみた。 「悩み、って何かな? 吉井さん、いつも通りに明るく見えるけど」 「うぅん。ここでは、言えません。それに、これは空元気なんですぅ」  そして、長谷川さんを見るとホッとするから、ついついデスクまで来ちゃう、と言うのだ。  そんな彼女に愛想笑いをしながら、健人はこめかみを指でぐりぐり押していた。

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