56 / 256

5

 健人の報告に、由宇は腕組みした。 「なかなかの策士ですね。吉井 美咲は」 「由宇くんを唸らせるなんて。そんなに凄いかなぁ?」 「相談の内容を、一言も洩らしませんでしたよね」 「そう言えば、そうだ。レストランで話す、って言い張ってたな」  そこが、彼女の頭のいいところです、と由宇は眉根を寄せた。 「吉井 美咲が何を話すのか、健人さんは気になるでしょう?」 「うん、確かに」 「興味を持たせて、必ず会いに来させる作戦です。さらに……」  さらに、当日までに。 「当日までに、健人さんの頭の中を、自分でいっぱいにするつもりなんです」 「えぇ?」 「悩みって何だろう、と。考えを巡らせますよね、ヒトは普通」 「ああ、心配だからね」  そこが彼女の狙いなんです、と由宇は腕を解いて健人を指さした。 「心優しい健人さんは、すでに吉井 美咲の罠にかかっているんです!」 「そんなぁ!」  考えすぎじゃないかな、と健人は由宇に訴えた。  何せ彼女は、新採からようやく一年経つ、まだ23歳の若手なのだ。  そんな悪賢さを、身に着けているとは思えないが。 「やれやれ。健人さんは、甘いですね。仕方ない。僕と、対策を練りましょう」 「よ、よろしくね……」  23歳の女の子が仕掛けた罠に備えて、起動後数日しか経っていないAIの世話になる。 (何だか私は、情けないなぁ)  少し冷めてしまったお茶をすすり、健人は肩をすくませた。

ともだちにシェアしよう!