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健人の報告に、由宇は腕組みした。
「なかなかの策士ですね。吉井 美咲は」
「由宇くんを唸らせるなんて。そんなに凄いかなぁ?」
「相談の内容を、一言も洩らしませんでしたよね」
「そう言えば、そうだ。レストランで話す、って言い張ってたな」
そこが、彼女の頭のいいところです、と由宇は眉根を寄せた。
「吉井 美咲が何を話すのか、健人さんは気になるでしょう?」
「うん、確かに」
「興味を持たせて、必ず会いに来させる作戦です。さらに……」
さらに、当日までに。
「当日までに、健人さんの頭の中を、自分でいっぱいにするつもりなんです」
「えぇ?」
「悩みって何だろう、と。考えを巡らせますよね、ヒトは普通」
「ああ、心配だからね」
そこが彼女の狙いなんです、と由宇は腕を解いて健人を指さした。
「心優しい健人さんは、すでに吉井 美咲の罠にかかっているんです!」
「そんなぁ!」
考えすぎじゃないかな、と健人は由宇に訴えた。
何せ彼女は、新採からようやく一年経つ、まだ23歳の若手なのだ。
そんな悪賢さを、身に着けているとは思えないが。
「やれやれ。健人さんは、甘いですね。仕方ない。僕と、対策を練りましょう」
「よ、よろしくね……」
23歳の女の子が仕掛けた罠に備えて、起動後数日しか経っていないAIの世話になる。
(何だか私は、情けないなぁ)
少し冷めてしまったお茶をすすり、健人は肩をすくませた。
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