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金曜日の夜、健人は美咲の案内で、イタリアンバルを訪れた。
週末なので、仕事帰りと思われる人々で賑わっている。
「私、このお店よく来るんですよぉ」
「へぇ、そうなの」
「コスパ抜群だし、おシャレだし。女子会とかも、しちゃいますぅ」
「なるほど」
予約席に通されたが、周囲がやけに盛り上がっており、健人は落ち着かなかった。
居酒屋の雰囲気を持つこの店は、相談の場所には、あまりふさわしくない。
早々に切り上げたいと考えて、健人は美咲に持ち掛けた。
「それで。悩み、って何かな? 聞かせてくれる?」
「ベーコンのシーザーサラダ・温玉添え、来ましたぁ!」
そして美咲は、ワイングラスを健人に渡した。
「120分飲み放題付きにしたんです。長谷川さん、飲んでください」
「えっと、ごめん。私は今夜、車なんだ」
「え~? せっかく、飲み放題予約したのにぃ!」
ぷぅと頬を膨らませる美咲に、健人は真顔で訴えた。
「だって、大事な悩み相談なんだよ? 酔った頭で考えたくは、ないんだ」
「代行サービス、頼めばいいじゃないですか」
健人は自然と、指をこめかみに当てていた。
(由宇くん! これはなかなかの強敵だよ!)
じゃあ、形だけ乾杯、と健人と美咲はワインの入ったグラスを合わせた。
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