59 / 256

3

 金曜日の夜、健人は美咲の案内で、イタリアンバルを訪れた。  週末なので、仕事帰りと思われる人々で賑わっている。 「私、このお店よく来るんですよぉ」 「へぇ、そうなの」 「コスパ抜群だし、おシャレだし。女子会とかも、しちゃいますぅ」 「なるほど」  予約席に通されたが、周囲がやけに盛り上がっており、健人は落ち着かなかった。  居酒屋の雰囲気を持つこの店は、相談の場所には、あまりふさわしくない。  早々に切り上げたいと考えて、健人は美咲に持ち掛けた。 「それで。悩み、って何かな? 聞かせてくれる?」 「ベーコンのシーザーサラダ・温玉添え、来ましたぁ!」  そして美咲は、ワイングラスを健人に渡した。 「120分飲み放題付きにしたんです。長谷川さん、飲んでください」 「えっと、ごめん。私は今夜、車なんだ」 「え~? せっかく、飲み放題予約したのにぃ!」  ぷぅと頬を膨らませる美咲に、健人は真顔で訴えた。 「だって、大事な悩み相談なんだよ? 酔った頭で考えたくは、ないんだ」 「代行サービス、頼めばいいじゃないですか」  健人は自然と、指をこめかみに当てていた。 (由宇くん! これはなかなかの強敵だよ!)  じゃあ、形だけ乾杯、と健人と美咲はワインの入ったグラスを合わせた。  

ともだちにシェアしよう!