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「健人さんは、巧くやっているでしょうか?」  一人で留守番の由宇は、壁の時計を眺めた。  体内にセシウム原子時計を持つ由宇は、そんなものを見なくても、時刻が解る。  だが、健人の母が愛したというこのインテリア時計を、彼は好きだった。 「もうすぐ8時、ですね……」  ちょうどの時刻になると、数字パネルが開き、音と光と動きのパフォーマンスが始まるのだ。  1から12までの数字の妖精たちが、メロディーに合わせて愛らしく踊る。  エンディング終了後には、妖精は挨拶をして、元に戻っていく。  由宇はそれを待っていたが、思うのは時計のパフォーマンスではなく、健人のことだった。 「お食事、何を食べているのでしょうか。吉井 美咲と二人で」  そこで、由宇は気が付いた。  気付いてしまった。 「健人さんは今、彼女と二人。二人きり」  いや、と由宇は首を横に振った。 「レストランへ行く、と言っていました。スタッフや、他のお客さんがいます」  しかし、一度こびりついた事実は、頭から離れない。 「吉井 美咲と、二人だけの時間を過ごしている、健人さん……」  なぜだろう。  胸が、きりきりと痛んできた。

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