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生モッツァレラとフルーツトマトのカプレーゼ。
前菜3種盛り。
海老のアヒージョとバケット。
コースは次々と運ばれ、美咲は旺盛に飲み食いしている。
「バケット、お代わりOKなんです。長谷川さん、もう1個食べませんかぁ?」
「いや、私は結構……」
黒毛和牛ローストビーフ。
スパイシーフライドポテト。
陽気に食事とお喋りを楽しむ美咲は、悩みを抱えているようには見えない。
「良かった」
「え? 何がですかぁ?」
「いや、吉井さん食欲あるから。ご飯も食べられないほど悩んでは、いないんだね」
健人の言葉に、美咲はフォークを置き、うつむいた。
「私、無理してるんですよ? 長谷川さん、解ってくれないんですね……」
「え? あ、ごめん!」
慌てる健人に、美咲は心の中で舌を出していた。
(長谷川さん、やっぱチョロい)
健人の出方と成り行き次第では、一緒にホテルへ行ってもいい、とさえ目論んでいる美咲だ。
さて、お次の一手を、と口を開きかけた時、健人がポケットに手をやった。
「コールが鳴ってる。ちょっと、ごめんね」
発信は、由宇だ。
「どうしたんだろう」
健人は、通話を繋いだ。
「もしもし、由宇くん? どうしたの?」
『健人さん……帰ってきてください……』
「え!? ちょっと、由宇くん!?」
『何だか、胸が苦しくて……』
健人は、すぐに席を立っていた。
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