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第十三章 もっと好きになったよ

 突然、勢いよく席を立った健人に、美咲は驚いていた。  さらに驚いたことに、彼はジャケットを手にして、そのまま店を出る様子なのだ。 「ちょ、長谷川さぁん!? 私の悩み、聞いてくれないんですか!?」 「ごめんね。急用ができちゃって」  そして健人は、テーブルの上に封筒を置いた。 「ごちそうさま。これ、良かったら使って」  後はもう、小走りで去ってしまった。 「……何よぅ! もう!」  計画が台無し、と美咲は残された封筒を開けた。  中には、3万円入っている。 「わぁ! これって、食事代とタクシー代ってこと?」  すぐに機嫌を直した美咲は、にこにことデザートを追加オーダーした。 「やっぱ、長谷川さんイイ人!」  運ばれてきたチョコレートテリーヌ、ティラミス、そして季節のタルトを前に、美咲は小首をかしげた。 「彼ピッピの長谷川さん……どうしようかなぁ?」  健人を友達以上、恋人未満に据えて、都合のいいATMにしようと思っていた、美咲だ。  しかし、これほど優しく、甘く、そして気前のよい男性なら、と美咲は考えた。

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