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「会社の皆さんで旅行、ですか?」
「そう。由宇くんも一緒に、どうかな?」
夕食後のくつろぎのひとときに、健人は由宇に計画を話していた。
きっと喜んでくれると思っていたが、なぜだか彼は妙な表情だ。
「僕、健人さんは今のお勤めを、すぐに辞めると思っていました」
「えっ?」
「すでに、1000兆の資産があるんです。働かなくても、暮らせますよ?」
「うん。まぁ、それはそうだけど」
それに、と由宇は難しい顔だ。
「ヒトは普通、大金を手にしたら、もっと増やそうとしませんか?」
「あぁ、投資とか?」
「そうです。でなければ、起業するとか、政界へ進出するとか」
富や名声、権力を手にすることが、人間の幸福でしょう?
由宇は、そう言うのだ。
健人は微笑んで、由宇の隣に移動した。
ソファに掛け、その愛らしい顔をのぞきこんだ。
「確かに、それも面白いかもしれないね。だけど」
だけど、今はまず。
「まず、皆に幸せのおすそ分けをしたいんだ。それに……」
「それに、何ですか?」
「旅行には、吉井さんも参加するんだよ?」
「僕も行きます!」
途端に態度を変えた由宇に、健人は声を立てて笑った。
「やっぱり!」
「健人さん、もう少し危機感を持ってください!」
「ごめん、ごめん。楽しい旅にしようね」
健人は由宇の頭に手を乗せ、髪をくしゃりとなぶった。
由宇もまた、幸せそうだった。
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