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「健人さん、ピロートークしてもいいですか? 眠くないですか?」
「いいよ、もちろん。私からも、話したいことがあるし」
健人は由宇に腕枕をしながら、笑顔で言った。
「明日、乃亜さんに、私たちの結婚を許してもらうよう、お願いするよ」
「健人さん……」
「君の気持ちも、変わらないよね?」
「……」
由宇からの返事はなく、彼はただ、自分が伝えたいことを話し始めた。
「特別研究所から脱出する時、健人さんは僕にもご褒美をあげる、って言いました」
「覚えてるよ、ちゃんと」
『ねぇ、健人さん』
『何だい? 由宇くん』
『僕にも、ご褒美はありますか?』
『由宇くんのお願い、何でもきいてあげるよ』
『ホントですか? 絶対ですよ!?』
『うん。だから、こんな所からは、早く出ようね』
『はい!』
今ここで、ご褒美のおねだりかな?
(由宇くんは、一体何を望むんだろう)
こんな風に、健人の心は幸せの方向だけを見ていた。
だから、由宇の次の言葉に、ひどく慌てた。
「僕の願いは、たとえ結婚できなくても、ずっとあなたの傍にいたい。これだけです」
「由宇くん?」
「バディとか、友達とか、そんな関係でもいいから。健人さんの隣に、いたい……」
沈んだ様子の由宇に、健人は考えた。
(不安なんだな、由宇くん。だからさっきも、なかなか勃たなかったんだ)
そんな彼の髪を撫で、健人は逆にお願いをした。
「じゃあ、私のことも傍に置いてくれる?」
「えっ」
「私は、君とずっと一緒にいる気でいっぱいだよ」
「健人さん……!」
髪を、ひとつ、また一つ撫でてもらうたびに、心が潤いを取り戻していく。
将来の不安は、全て消えたわけじゃない。
でも、今この時だけは、安心して由宇は健人の腕の中で眠った。
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