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地球の赤い夕焼けとは違い、火星の夕空は青と紫に染まる。
太陽は青く小さくなっていき、やがて二つの月・フォボスとダイモスが昇る。
流れる時をゆっくりと味わいながら、健人は少し背筋を伸ばした。
「いよいよ来年から、だね」
「僕、楽しみです!」
来年から、いよいよ火星に建設したドームの一部を、緑化する計画だ。
光に空気、水に、適温。
そこへ、ゲノム編集を加えて火星環境に適応できるようにした、地球の植物を持ち込んで育てるのだ。
「その後、新しい家族がやってくる。由宇くんと私の、わ、わたわた……」
「しっかりしてください、お父さん!」
「いや、参ったなぁ」
健人は、顔を赤くして照れている。
火星開発計画の第一ステージは、健人と由宇、そしてその兄弟たちが担った。
第二ステージでは、さらに11名増員する予定だ。
そして、その11名は、健人と由宇の子どもとして設定された、アンドロイドたちなのだ。
「どんな子たち、なのかな?」
「来年になったら、詳しいデータがもらえるはずですよ」
「名前を、11人分考えるのか。ワクワクするぞ!」
「巌出音(ガンデオン)は、絶対ダメ!」
「え? ダメなの?」
二人は、心から楽しく笑った。
いつしか太陽は沈み、火星の夜空に星が現れ始めた。
この赤い星が、人類の第二の故郷になるまで、健人と由宇は生き続ける。
続く命に渡すまで、輝き続ける。
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