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言葉には速度がある。
話すスピードということではなく、記憶へ、心へ、耳へ、そして鼓膜へと届く言葉の速さ。
光には光速、音には音速という名がつけられているのに、言葉にはないのはなぜなんだろう。
言葉は重さ、だからか?
重い言葉、軽い言葉。
だが言葉は確かに速さを持っていると思う。
あの人の言葉は俺に向かって猛スピードで突っ込んできたんだから。
要するにそれは一目惚れというやつだ。
正確には一聴き惚れ?
一言惚れ?
そんな言葉があるのかは知らないが。
とにかくあの人が発した言葉に魅かれた。
その一言一言に、その声に、その響きに。
あの人の全部をどんどん好きになって、全てを二人だけの死ぬまでの秘密にしたいそう思った。
あの人の言葉に埋めつくされて、満たされたい。
何一つ特別な言葉なんかじゃない、って言うけど、俺には全部特別な言葉だったから。
今見ている星の光が何年も前の光で、実際の星はもう消滅していたとしても、俺たちの言葉は何年もの時間を超え、お互いへと辿り着く。
記憶へ、心へ、耳へ、鼓膜へ、いつかきっと。
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