1 / 10

1

 言葉には速度がある。  話すスピードということではなく、記憶へ、心へ、耳へ、そして鼓膜へと届く言葉の速さ。  光には光速、音には音速という名がつけられているのに、言葉にはないのはなぜなんだろう。  言葉は重さ、だからか?  重い言葉、軽い言葉。  だが言葉は確かに速さを持っていると思う。  あの人の言葉は俺に向かって猛スピードで突っ込んできたんだから。  要するにそれは一目惚れというやつだ。  正確には一聴き惚れ?  一言惚れ?  そんな言葉があるのかは知らないが。  とにかくあの人が発した言葉に魅かれた。  その一言一言に、その声に、その響きに。  あの人の全部をどんどん好きになって、全てを二人だけの死ぬまでの秘密にしたいそう思った。  あの人の言葉に埋めつくされて、満たされたい。  何一つ特別な言葉なんかじゃない、って言うけど、俺には全部特別な言葉だったから。  今見ている星の光が何年も前の光で、実際の星はもう消滅していたとしても、俺たちの言葉は何年もの時間を超え、お互いへと辿り着く。  記憶へ、心へ、耳へ、鼓膜へ、いつかきっと。

ともだちにシェアしよう!