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オートミールカラー
ここ何日か暖かい日が続いていたから、今日こそは必要ないだろうと思って着ていたカーディガンを家に置いてきた。
家を出た時はまだ気にならなかったけど、だんだんと体が冷えて寒くなってくる。
しかし取りに戻るにはもう遠くて、寒さも耐えられないほどではないから、正直取りに戻るのは億劫だった。
……今日はこのまま過ごすしかないな。まあ、乗り切れないこともないだろうと思いつつ空を見上げれば薄暗い曇り空が広がっている。
ここ最近ずっと晴れていたのに。そりゃ寒いわけだ。
「おはよ宇都峰 ……お前寒くないの?」
「おー、最近気温高かったしいらないかと思って油断した……っくしゅん!」
「うわ、風邪ひくなよ」
「ん」
途中で合流したクラスメイトはカーディガンにブレザーを着ているのに、その隣を歩く俺はYシャツ一枚。
ぽつぽつと周囲に増えてきた学生も似たようなもので、どうやら俺だけが浮いているようだった。
やはりどこを見てもYシャツの白は見えない。
「今日雨降るっぽいけど」
「マジ? 傘もないわ」
「俺も傘はない」
「傘はってなんだよ」
「カーディガンはある」
「うるさ」
曇り空に加えて雨も降るらしいとなれば。言われてみれば吹き抜けていく風もより冷たい気がする。
両腕を抱いて温めるようにしてさすると、幾分かましになったかもしれない。本当に気休め程度だけど。
俺たちを追い抜いていった学生も、やっぱりカーディガンを着こんでいた。
***
教室へ入り荷物を置くと、そのまま隣のクラスへ向かう。もうアイツも来ているはずだろう。
外から名前を呼んで声をかければ、スマホを見ていたのか顔をあげてこちらを向く。
それと同時に、きゅっと眉根を寄せて何か言いたげな表情をしていた。
「おはよ」
「お前何でYシャツだけなんだよ」
「いらないかと思って」
「今日こそいるわ」
「だよなー」
デジャヴを感じながらも同じフレーズを返せば、名取 は目の前でカーディガンを脱ぎ始める。
俺と同じようにYシャツだけになると、いつも着ている薄いベージュのそれを突き出してきた。
「俺の貸す」
「は? いいよ、お前が寒いだろ」
「寒くない」
「いや」
「朝くしゃみしてただろーが」
「……あー、そういや朝追い抜いてったな」
追い抜いていった奴のリュックとブレザーの隙間から見えていたカーディガンは、確かに目の前に突き出されたこれだったと思う。
確か色の名前を言ってた気がするけど忘れた。なんだっけな……。
違う方に思考が飛んでいけば、それを知ってか知らずか名取はまた何か言いたげな表情をしていた。
「お前が知らん奴と喋ってたからだボケ」
「クラスメイトだよ。知らん奴だろーけど……」
「声かけようと思ってたのに、なに他の奴と話してんだよ」
「え? お前」
それじゃあまるで。
からかってやればいいのに、なぜか返答に詰まってしまって沈黙が訪れる。
しかしそれも一瞬のことで、むっとした顔の名取がなにかに気付いたように目を見開いた。
「うっせー!! これ着とけバーカ!!」
「ぶッ」
カーディガンを投げつけられ、呆けていた俺はそれを頭から被るように受け止めてしまって。それを落とさないように手繰り寄せるので精一杯になっているうちに名取はいなくなっていた。
カーディガンをしっかりと抱えたとて、結局すぐには動けなくてその場に立ち尽くしてしまう。
「えー、なんだよ、今の……」
投げつける前の名取の顔は確かに赤かった。見間違い、じゃないはず。
その理由は分からないけど、名取のがうつってしまったのか、自分の顔も熱くなっていた。
走り去ったあいつにもう一度声をかけに行く勇気もなくて、のそのそとカーディガンを着てから教室へ戻る。
「お前そのカーディガンどしたの?」
「借り物」
「良かったな~」
「うるさ……」
自席へつくなり隣の席のクラスメイトが笑顔で言うもんだから、それ以上の会話を避けたくて机に突っ伏す。
まだ嗅ぎなれないけれど、よく知っている香りがした。
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