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新たな名前をつけなくちゃ

「あったかい……」  こたつに足を入れると、じんわりと下半身から温まっていく。背中の辺りに置いたクッションに身を預けると、より身体の力が勝手に抜けていくような感じがした。そこへ追い打ちをかけるようにぽかぽかとしてくると勝手に瞼が落ちてくる。  名取(なとり)と一緒に選んで購入したこたつは年の瀬ということもあって、そもそも入手できるのか、すぐに届くのかという心配はあったものの、無事に彼の部屋に合う良いものが見つかった。 「寝るなよ宇都峰(うづみね)。俺一人で飯食うからな」 「う……」  背後からそう鋭い声が飛んできて少しだけ背筋が伸びる。きっとそんなことはしないだろうと分かっているけれど、名取の作るご飯を逃すのはあまりに惜しい。この数年ですっかり胃袋を掴まれてしまっているのだ。  キッチンで料理を作ってくれている名取は、俺がここへ来てすぐに動くなと半ば脅しのように念押ししてきた。もう身体を酷使するような勤務時間ではないというのに、それでも心配らしい。なるべく休んでいてほしいみたいだ。  流している映画に意識を向けつつ時折名取と会話をしては、やっぱり動かないと寝てしまいそうだからと何度かこたつから抜け出していた。味見とか食材を冷蔵庫から取り出すくらいはさせてくれたので、ギリギリなんとかなっている。 「もうちょいだから、せめて食ってから寝ろ」 「俺もそうしたいよ」  今年、数年間勤めた会社を辞めて転職をした。今まで年末年始の休みなんてあってないようなものだったが、新しい会社は当然のように仕事納めがあって休みも取れる。こたつの件もあって、休みも貰えた俺は名取と過ごすことにした。そう希望を伝えれば、二つ返事で頷いてくれた名取には感謝しかない。  だんだんと名取と二人で過ごす時間も増えてきて、身体にも心にも余裕が生まれてきている。このままいけば、きっと。 「いま映画どのへんだ?」 「序盤の終わりぐらいかな……ん? ねえ名取、ここ昔旅行の時に行かなかった?」  正直、映画の撮影場所を気にするほど熱心ではない。偶然情報を見かけることがなければ知らないままだろう。だけど、こうして自分の知っている場所が出てくると少し嬉しいような気がする。名取と行った所となれば尚更というか、自分一人だけが知る場所ならこれほど興奮していなかったかもしれない。 「こんな所行ったか?」 「ちょっと巻き戻すよ、ほらここ、見て……」  ぱっと振り返ると、いつの間にかこちらへ来ていたらしい名取の顔がすぐ目の前にあった。ほんの数ミリの距離しかなくて、ぶつからなかったことに安堵すると共に、あまりの近さに固まってしまう。  それは名取も同じだったようだけれど、俺はすぐに軽く身を乗り出して、その距離を埋めた。 「っん、」 「……ごめん、つい」 「……別に」  途端に幸福感が溢れてくるのが分かる。頭がふわふわとして、名取への愛しさが溢れそうになって。久しぶりの感覚に心臓が酷くうるさくなった。目の前の名取は少しも動かなくて、俺も同様に動けない。なんだか視界が滲んでいる気がするけれど、それでも彼が耳まで真っ赤になっていることはよく分かった。  もっと触れたい。さっき埋めたばかりの数ミリをもう一度埋めて、それから。思考はそこまで動くのに行動は伴わなくて、あと一歩が踏み出せなかった。これで、もしも断られたら、なんてことを考えてしまう。  だからせめて、どんな形でもいいから名取からの同意が欲しかった。 「もう一回、いい……?」 「ッ……あ、やべ、火つけてんだ」  すばやく身を引いた名取がハッとして立ち上がり、キッチンの方へと足早に進んでいく。映画の話を聞いたらすぐに戻るつもりだったようだ。 「……あと少し、だったな」  本当にあと少しで名取も受け入れそうになっていた。離れてしまったのを少し残念に思う気持ちもありつつ、拒んでくれて良かったとも思う。相当浮かれてしまっていたけれど、そのお陰で冷静になれたからだ。  あのまま触れてしまうよりも、この曖昧な関係を終わらせることが最優先だろう。元々そのままにしておくつもりなんてさらさら無かったけれど。  真っ赤な顔をしたまま料理をする名取をじっと見つめる。きっと今日一日はギクシャクしたままだろうな。俺も普通に振る舞える自信はあんまりなかった。今年の終わりまでにはいつもの状態に戻っておきたい、なんて希望的観測をしておく。 「昼飯できた」 「あ、うん。ありがとう。俺運ぶよ」  このあと名取の手に触れてカトラリーを床に落としてしまって、何とも子供じみたシチュエーションに二人で吹きだしてしまった。

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