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第8話
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第8幕 夜明けの余白
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夜が明ける前の静けさ。
カーテンの隙間が、うっすら白んでいる。
部屋の空気はまだ夜の熱を引きずっていた。
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千秋は羽鳥の肩に、ぐったりと寄りかかっていた。
眠りは浅いはずなのに、不思議と安らいでいる。
羽鳥の体温に包まれていると、どんな悪夢も近づけない。
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「柳瀬のことは……あとで話す」
低い声が、眠りの境目を揺らす。
夢か現実か分からないまま、千秋はうっすら目を開けた。
「……俺も、自分の言葉で……話す」
掠れた声が、空気に滲む。
それだけを言葉にして、また羽鳥の肩へと身を預けた。
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心の奥で思う。
――言えなかった想いも、少しずつ提出していく締切なんだ。
俺の仕事は、原稿だけじゃない。
羽鳥に、ちゃんと自分を見せること。
逃げずに差し出すこと。
それが、これからの俺の課題だ。
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明け方。
キッチンから、かすかな金属音がした。
フライパンの油が弾ける音。
トーストの香ばしい匂い。
羽鳥が、いつの間にか立っている。
まるで当たり前みたいに。
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「……トリ」
声をかけると、羽鳥は振り返らない。
皿を持ったまま、ただ短く告げる。
「……起きたか。座れ」
テーブルに、目玉焼きとパンの皿が並べられる。
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千秋は小さく笑って、ぽつりと呟いた。
「……ありがとな」
羽鳥は答えない。
返事の代わりに、皿をすっと千秋の前に置いた。
それだけで十分だった。
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外の世界が動き出す。
だけど、この部屋の時間はまだ静かに続いていた。
肩に残る体温が、今日を生き延びる証みたいに――
千秋の胸に、温もりを刻んでいた。
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