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第7話

※この回には濃いめの甘い描写(R要素)が含まれます。 苦手な方はご自身のペースでお読みください。 ❖ ── ✦ ── ❖ 第7幕 触れない距離、触れる心 ❖ ── ✦ ── ❖ ソファに沈み込んだ体は、まだ震えていた。 隣に座る羽鳥の気配が、部屋の空気を塗り替える。 近い。 けれど触れてはいない。 その距離が、抱きしめられるよりもずっと苦しい。 ⸻ 「吉野」 低い声が、胸の奥に落ちていく。 耳の裏が熱くなり、指先にまで痺れが走った。 「……俺は、お前のなんなんだ」 二度目の問い。 逃げ場のない真っ直ぐな瞳で。 ⸻ 喉が詰まる。 それでも、言葉は堰を切ったように零れた。 「……トリは……俺にとって一番大事な存在だ。  ずっと幼馴染で……すぐに恋人だって言えねぇけど……  でも、お前が好きなのは、変わらない」 吐き出した瞬間、胸が軽くなるはずなのに、逆に苦しい。 羽鳥がどう答えるか、それだけで世界が変わってしまう気がして。 ⸻ 羽鳥の瞳が深く揺れた。 「……お前が俺をどう思っていようが」 「俺は、お前とずっと一緒にいる」 「そう思って……今まで生きてきた」 誓いのような言葉。 心臓を直に掴んでくる。 震える体ごと支配してくる。 ⸻ 羽鳥の手が、そっと千秋の手に重なった。 ただ触れただけ。 けれど、その熱に千秋の身体は大きく震えた。 「……っ」 抱きしめられるより重い。 口づけよりも濃い。 支配にも似た甘さと怖さが、一度に押し寄せる。 「千秋」 名前を呼ばれただけで、全ての力が抜けていく。 ⸻ 羽鳥の指が頬をなぞり、顎を持ち上げる。 次の瞬間、唇が重なった。 浅い口づけ。 けれどすぐに深く侵されて、舌を絡め取られる。 「ん……っ、は……っ」 拒む声も、全部吸い込まれる。 胸が熱くて、呼吸が乱れて、頭が真っ白になっていく。 ⸻ シャツのボタンが外され、指先が肌を撫でる。 冷たい掌が触れるたびに、そこだけが火傷みたいに熱を帯びる。 「やっ……トリ……!」 「大丈夫だ。……俺がいる」 耳元に低く落とされた囁きが、骨の奥にまで染みていく。 怖いのに、安心してしまう。 その矛盾が、余計に千秋を追い詰める。 ⸻ 胸を擦られ、腰を抱き寄せられ、逃げられない位置に固定される。 触れるだけで敏感になって、声が洩れる。 「……や、ぁ……! そこは……だめ……っ」 「素直だな。……もっと聞かせろ」 恥ずかしい言葉と共に、体の奥に熱が集まっていく。 涙が滲んで、頬を伝った。 ⸻ 「……入れるぞ」 耳元で告げられ、体が硬直する。 「ま、待っ……やめ……!」 「千秋。信じろ」 瞳を絡められた瞬間、全ての抵抗が崩れ落ちた。 ⸻ 熱が押し広げ、奥へ侵入してくる。 強い痛みと、どうしようもない甘さが同時に胸を貫いた。 「っ……あ……ああっ……!」 声が零れ、背を反らす。 羽鳥は髪を撫で、額に口づけ、震える体を優しく宥め続ける。 「力を抜け。……すぐに慣れる」 その声が、最後の砦を溶かした。 ⸻ ゆっくりと奥まで満たされ、千秋の体は羽鳥に抱え込まれる。 動き出すたびに世界が揺れ、声が勝手に零れる。 「や……っ、あ……! も、もう……っ」 「千秋。……俺だけを呼べ」 「トリ……っ、トリ……!」 呼ぶたびに熱が深く突き上げ、千秋の意識を溶かしていく。 ⸻ 限界が近づく。 涙と声と熱が重なり、世界が白く弾けた。 「っ……ああああ……!」 絶頂に飲み込まれ、千秋は羽鳥の腕の中で崩れ落ちる。 ⸻ ぐったりと寄りかかった体を、羽鳥が強く抱きしめる。 額に落ちた口づけが、全てを封じるように甘い。 「……千秋」 低く響く声が、耳の奥を震わせる。 その名前を呼ばれるだけで、千秋の胸は再び熱を宿した。 ――逃げられない。 けれど、もう離れたくなかった。 ⸻ 📖 次回予告 千秋と羽鳥の距離が、ついに言葉ではなく身体で確かめられる夜。 けれど夜明けは必ず訪れる――。 🌙 第8幕 夜明けの余白 📅 9月2日(月)21:00 更新予定

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