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第1話

うだるような暑い日が続く8月の初旬。今日も熱帯夜になりそうな蒸し暑い夜だ。エアコンをつけていても、額にうっすらと汗がにじむ。 瑞希は夕飯の仕上げに取りかかっていた。今夜のメニューは、冷やし中華と鶏の照り焼きとポテトサラダ。ちょっとちぐはぐな気がするが、翔真の好物ばかりなので良しとする。 茹でて冷やした麺の上に、手際よく具材を盛り付けていく。 「これでよしっと」 最後に半熟玉子をのせ、瑞希は満足そうに目を細めた。 ラップをして冷蔵庫に入れる。 エプロンを外して椅子にかけ、時計に目をやると、午後の8時を過ぎていた。 もうそろそろ、翔真が空手の強化合宿から帰って来るころだ。さっき、LINEに連絡がきた。 今は夏休み。 瑞希と翔真は大学2年生になっていた。 二人とも国立の医学部を選んだ。先に進路を決めたのは瑞希だ。両親を事故で亡くしてから、医師を目指すことは、瑞希の中にどこか決意としてあった。だが、まさか翔真まで同じ学部を選ぶとは思わなかった。実家の神社は長兄が跡を継ぐようになっていて、男ばかり四人兄弟の三男である翔真は、自分の将来を思うように決められるらしかった。 『良く言えば自由。悪く言えば放任主義。どうでもいいんだよ、三男なんてのは』 翔真が以前、珍しくふて腐れぎみに言っていたが、そんなことはないと瑞希は思う。翔真の実家に行けば、翔真が親や兄弟からも大切にされているのは伝わって来る。何より瑞希は日浦家の温かさが好きだったし、羨ましくもあった。 家から医大まで通うのは、かなりの距離があったため、互いの家を出て、二人で暮らすことを決めた時も、特に反対されなかった。 そして、今、二人の思惑どおり?この2LDKのアパートで生活している。 『瑞希くんと一緒なら安心ね。翔真のことよろしくね』 不思議なことに、翔真の母からは、翔真より瑞希の方が、しっかりしているように見えるみたいだった。瑞希が翔真よりしっかりしていると所といえば、料理の腕くらいしか思いつかないのだが。 翔真の実家に遊びに行けば、実の息子以上に良くしてくれる翔真の母を、どこかで裏切っているという後ろめたさもある。親友の域を超えて、親密で濃密な関係。男同士で恋人同士。おまけに体の関係まであって。親ならば願って当然の息子の幸せ。結婚やその先にある子供のことなど。何ひとつ瑞希には叶えられない。それは、瑞希の祖父母であっても、天国の父母であっても同じなのだが。 どうあっても譲れない密かな覚悟も、瑞希の胸の内にはあるのだ。 それは……。 「ただいま」 玄関のドアを開けて、翔真が帰って来た。 「おかえり……うわっ」 部屋に瑞希を見つけるなり、駆け寄ってきてぎゅうっと抱きしめられる。玄関口にスポーツバッグは置きっぱなし、靴も脱ぎ捨てられたままだ。 「瑞希、会いたかった」 顔を上向かされて、キスされた。舌が入ってきかけた所で、慌てたように翔真の体が離れる。 「ごめん、汗臭いだろ?最終日まで散々しごかれた。先にシャワー浴びてくる。瑞希は?」 「俺はもう済ませた」 翔真が意味ありげにニヤリと笑った。 「もう準備万端?」 「なんの準備だよ?早く行ってこいよ」 翔真が何を言いたいのかはわかっている。わざとはぐらかして、翔真を風呂場の脱衣所へと追いやった。ついでに玄関に行き、翔真の靴を揃え、スポーツバッグもリビングに運ぶ。 瑞希はやれやれと思い、小さいため息を吐いた。  結局、晩ごはんも味わって食べたかわからないうちに、翔真の『したい』という理由だけで、寝室へとなだれこんだ。 瑞希はベッドの淵に腰かけた翔真の股間へと顔を埋めていた。 互いに服を脱がし合って、二人ともすでに裸になっている。 ピチャリと濡れた水音が室内に響いていた。 口腔いっぱいに含んだ屹立は熱を帯び、瑞希を圧倒するように硬く張りつめて逞しかった。少しばかり強めに握っても、動じない張りと弾力がある。 男の瑞希から見ても、見惚れるくらい綺麗についた筋肉。広い肩幅、厚い胸板、逞しく割れた腹筋。普段からも躍動感に溢れる若い肉体は、男というより強烈に雄を感じさせた。 どれも瑞希にはないものだ。医師は体力勝負ということもあり、ジョギングしたり、体力をつけるために日々努力はしているが、相変わらず細いままだ。翔真の体を前にすると、自然とコンプレックスを刺激されずにいられない。 それだからだろうか?翔真を悦ばせたいと思うのは。瑞希の男としての意地とプライドもあるかもしれない。 咥えることも、いつからか躊躇しなくなった。どこをどう攻めれば、感じさせることができるのか、互いの性感帯を知り尽くした仲だ。とは言っても、圧倒的に快感に弱いのは瑞希の方なのだが。 先端の割れ目に舌先を押し込んで嘗めると、奥に塩の味のする粘液を感じた。丁寧に舐めとってから、翔真の感じやすい丸みの裏側の括れ、張り出した筋まで、たっぷりと唾液をのせた舌をジグザグ這わせる。 すぼめた唇で包むように先端を愛撫する。翔真のモノが、瑞希の唇を弾くように、さらに硬く反り返った。それを指で扱き、果敢に喉奥まで咥えこんでいく。 翔真が満足げに息を吐いて、瑞希の前髪を掻きあげる。 「瑞希の顔、エロい。そそる。めっちゃ気持ちいい。……フェラ、上手くなったよな」 さも感心したように言われるから、いたずら心も手伝って、瑞希は翔真のモノに浅く歯を立てる。 「痛ッ……」 翔真がビクッと体をすくめる。口腔をいっぱいに満たしていたものが、半ば強引に引き抜かれた。 (来るッ) 反射的に目を瞑る。瞬間、身構えたけど、避けられなかった。 ドクッと熱く脈打つ先端部から、瑞希の顔へと精液が飛び散る。 頬を伝うドロリとした温かい粘液。独特の臭気。濃厚な雄の匂い。 嫌いじゃない。時間をかけて馴染んできたものだ。 嫌いじゃないけれど。 いつもなら、翔真がこのタイミングでイクことはない。 瑞希は無言で顔を手の甲で拭った。 「お返し」 翔真がイタズラっぽくニヤリと笑う。 言葉通り、わざとされたのは明白で。 「顔にかけられて感じた?」 挑発するように言われてムッとする。翔真の言葉が多少なりとも的を得ているから、余計に苛立つ。 「誰が感じるかよ」 瑞希はその場で立ち上がると、翔真を睨みつけ、くるりと踵を返して部屋のドアに向かう。 「待てよ」 翔真が慌てたように、瑞希の二の腕を掴む。強く引き寄せられてバランスを崩す。 どうなったのかわからない。気がつくと自分の体がきれいに一回転して、ベッドの上に仰向けに転がされていた。その上に翔真の体がのし掛かってきて、瑞希を見下ろしてくる。 「そうカリカリすんなよ。一週間ぶりなんだから……」 「誰のせいだよっ……んんっ」 いきなり唇を塞がれた。肩口を叩こうとした拳は、翔真の手にやんわりと掴まれて、ベッドに押し付けられる。握りしめた手を開かれて、互いの指を絡ませあう。 その間にも口づけは深くなり、舌で口腔を犯された。それだけで体の中心に淫靡な熱が灯った。舌裏をつつかれて唾液が溢れる。瑞希の口腔で互いの舌が絡み合う。唾液の微かな甘さを感じた。 「んッ……」 翔真の唇が離れ、首から鎖骨、胸を辿るように降りていく。きつく肌を吸い、紅い花が散ったような跡を残すのも忘れない。 胸の尖った突起を唇に含まれて、甘噛みされる。舌先でチロチロと転がされ、自分でも股間のモノが痛いほど張りつめるのがわかった。 「可愛いな、瑞希は」 「可愛いは余計だろ」 翔真の言葉にいちいち噛みつきたくなるが、瑞希には余裕らしい余裕なんてない。 「可愛いさ。お前と違って、お前の体は素直だからな。まあ、素直じゃないお前の性格も全部ひっくるめて俺は好きだけど」 瑞希の性器は快感に震えて勃ち上がっている。先端は濡れて雫を滴らせていた。丸みの割れ目を翔真の親指で押し広げられると、さらに伝って溢れる感触があった。握り込まれて、軽く扱かれただけでイキそうになる。 翔真が体をずらして瑞希の股間に顔を埋める。翔真の口腔に迎えられ、生暖かい熱に包まれただけでも高ぶるのに、すぼめた唇で何度もきつく吸われると達しそうになった。 先端に割り込んだ舌先で、小さな粘膜を苛められる。微かな痛みがあったが、すぐに快感へと擦り変わった。 再び奥まで咥え込まれる。熱いうねりが出口を求めてさ迷っていた。 「翔真ッ、出るっ」 翔真の口を汚すのは初めてではない。何度も経験があるけれど、どこかで抵抗があった。 翔真の頭を押し退けようとしたが、そんなことを意に介する翔真ではない。 それだけでなく、完全に無防備だった後孔に、翔真の長い中指を突き入れられた。 「あうッ……」 いきなりの無遠慮な侵入。それにもかかわらず、指一本くらいなら、そこは軽く受け入れてしまう。呑み込んた指は、すぐに瑞希の内で感じる所を的確に刺激してきた。 イク寸前のこのタイミングで。口腔に含まれたモノだけじゃない、別の快感も加わって翻弄された。 二重の攻め苦に、体は簡単に陥落させられる。 「ッあっ……あぁッ……」 ビクビクッと華奢な腰を震わせて、翔真の口腔に精液を迸らせる。口に吐き出された白濁を、翔真はゴクリと喉を鳴らして、当然のように嚥下した。 荒い息をついて腕で両の目を覆い隠す。イッたばかりの顔を見られるのは気恥ずかしかった。翔真の指は静かに抜け出ていく。体を繋いだわけではないのに、すでに一戦目を終えたような、軽い疲労感があった。 「たくさん出たな」 翔真が手の甲で唇をぬぐう。 「俺がいない間、ひとりでしたりしなかったんだ?」 「当たり前だ。俺はこの一週間、『休息日』だったんだ。体に負担かけたくないの、知ってるだろ」 二人で暮らすようになってから、当然のごとくセックスの回数が増えた。自分で自慰行為をする必要ないほどに。セックス自体は週に1~2回で抑えているとはいえ(あくまでも瑞希のたっての希望で)、ペッティングはしょっちゅうだし、とにかく翔真と体が密着しない日はない。 「俺は合宿中に、4回抜いたけど」 瑞希はぎょっとして固まってしまった。さらりとすごい事を言われた気がする。 「はぁ?お前、合宿中に何やってんの?」 「別に。そう時間かかるわけじゃないし」 言いながら、翔真は次の準備に余念がない。たっぷりのローションで指を濡らしていく。

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