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紛れ込んだΩ②
複数のグループトークで、『紛れ込んだΩ』のことが話題になっていた。
どこでも冗談としか受け止められていない。面白くもない冗談だが、言い出したら誰かが食いついている。思春期には性的な話題はつきものだ。
(もしも俺の名前が出ても、冗談にしてしまえばいい)
雪弥はそう決めた。
グループトークの最後の会話が参考になった。
(この藤堂雪弥がΩだなんて、誰も思わない。あの暴漢が噂を言いふらしても、誰も信じないに決まってる。Ωは俺だよ、と堂々と言ってやればいいんだ。笑い飛ばされるだけだ)
生徒会のグループトークでもΩの噂が持ち込まれている。雪弥は引退して以降発言したことはないが、情報を共有するために卒業まで参加するつもりだ。
――聞きました? 校内にΩがいるって話
そうメッセージを送ってきた生徒は部活で忙しく、ほとんど生徒会活動には参加していないが、メッセージだけでもと会話には参加してくる生徒会メンバーだ。
そのメッセージに返信する生徒はいなかった。
さすがに生徒会役員だけあって、つまらない冗談は取り合わないのだろう。雪弥はそう捉えた。
その後、事務連絡が続き、その話題は立ち消えとなった、かのように見えた。
数日後、しかし、グループトークに、再びΩの文字があった。
――この学校にΩがいますよね
そのメッセージの主は「ヤマダ」と名前が付けられている。
雪弥には誰かわからなかった。ヤマダは、数日前にグループトークに参加を始めたようだ。
(誰だこいつ?)
雪弥は嫌な予感を覚える。しかし、雪弥がグループトークに乗り込むことは藪蛇になるだけだ。
そのメッセージにも、生徒会の他のメンバーからの返信はなかった。グループトークは水を打ったように静まり返っている。
その静けさが余計に嫌な予感を増幅させた。
(何かが起きている)
そう思わせる空気を感じ取る。
――そろそろ、クラスマッチの準備をしてほしいのだが
秀人がそんなメッセージを送ってきた。
――はいはーい! こっちでゼッケン確認します!
――賞状発注、了解っす!
一年と二年の元気の良い返答がすぐさま沸き起こり、軽快に事務連絡が続く。
しかし、クラスマッチは三学期の最後の校内行事で規模も大きくはない。この時期から動くことではない。
どことなく不審を感じていると、ヤマダのメッセージがヤマダに引用される。
――Ωは、追放ですよね
再び、グループラインが静まり返った。
ヤマダがメッセージを連打していく。
――Ωは、追放ですよね
――Ωは、追放ですよね
――Ωは、追放ですよね
――Ωは、追放ですよね
――Ωは、追放ですよね
――Ωは、追放ですよね
――Ωは、追放ですよね
雪弥は恐ろしくなってスマホを伏せた。
(何かが進行している)
自分の前に大きな罠が張り巡らされている、悪意が大きな口を開けて待っている。雪弥は身震いした。
(何かが俺の知らないところで進行している)
次にグループトークを見たとき、ヤマダは強制退会されていた。
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